
上田市内を走る上田電鉄別所線は、上田駅から西へ、塩田平の奥にある別所温泉まで約12キロを30分ほどで結ぶ。
地方鉄道が疲弊する中、地域ぐるみの再生の取り組みで気を吐いている。乗客減少で存続問題が1970年代と2000年代の2度取りざたされたが、ここ数年は利用者が増加。地元客の乗車を促す割引率の高い回数券の発売、観光客を呼ぶイベント「丸窓まつり」開催などの利用促進策が功を奏しているという。

別所線の上田駅は新幹線の開業時に高架化され、まだ真新しい。ホーム前では、「萌(も)え系」の存続支援キャラクター「北条まどか」の等身大パネルが客を迎えている。
上田を出るとすぐに千曲川を渡る。上田原まで西へ進み、生島足島神社近くの下之郷まで南進。その先は終点まで再び西へ進む。かつては上田原から西へ「青木線」が、下之郷から南へ「西丸子線」が分岐して走っていた。
終点・別所温泉は、古い木造駅舎が淡い黄色とペパーミントグリーンに塗られ、レトロでしゃれた雰囲気。改札では、着物にはかま姿の女性駅長がきっぷを受け取ってくれる。テーマパークに来たかのようだ。駅近くには、1986(昭和61)年まで走っていた名物車両「丸窓電車」が保存展示されていた。

塩田平には、水田とそれをかんがいするため池群が広がり、山際に平安から鎌倉時代に創建された古刹(こさつ)が点在する。別所温泉はその西の端に、20軒ほどの旅館や外湯、飲食店がひしめく。小さなカフェやギャラリーもあり、そぞろ歩きが楽しい。
北向観音に近い外湯の一つ「石湯」。玄関前の石柱に、「真田幸村公隠しの湯」とある。小説「真田太平記」で幸村が入った温泉として別所が登場するのにちなみ、作者の池波正太郎さんが揮毫(きごう)した。
入り口は銭湯のように狭いが、内湯には大きな石が配され、趣がある。ほのかに硫黄が香り、熱くはないが、体がよく温まる湯だった。「石湯」の道向かいの廃業した旅館には、赤備えの甲冑(かっちゅう)が展示されていた。厚紙で甲冑を手作りする上田市内の男性の作品という。
集落の北には、「別所三楽寺」の常楽寺と安楽寺がある。常楽寺は北向観音の本坊で、昨年亡くなった前天台座主の半田孝淳さんが住職を務めていた。石塔が重要文化財になっているが、分厚いかやぶき屋根の本堂も見応えがある。静謐(ひつ)の気が漂う安楽寺では、鎌倉時代築造の国宝「八角三重塔」が拝観できる。
別所温泉は、史跡や店、外湯を半日ほどで巡ることができ、歩き疲れないのがいい。寺の庭や別所線の駅に、ちらほらと白梅や紅梅が花開いていた。
(竹内大介)
(2016年3月12日号掲載)
=写真1=真田幸村の「赤備え」甲冑をイメージした「さなだどりーむ号」
=写真2=昭和時代の雰囲気を醸し出す別所温泉駅