
彫物師、石川雲蝶(うんちょう)の作品を巡るバスツアーを、新潟県南魚沼市の六日町観光協会が行っていると知り、参加した。雲蝶は江戸時代末期から明治初期にかけて越後(新潟県)の三条や魚沼で活躍。以前から作品を見たいと思っていた。
雲蝶は1814(文化11)年、江戸の雑司が谷に生まれた。彫物師として幕府御用勤めをするほどの腕前だったが、三条の金物商、内山又蔵に招かれ、多くの作品を残した。
長野を6時24分発の列車で出発し、直江津経由で六日町駅に着くと、ちょうどツアーバスの出発に間に合う。
ツアーの案内役は、ガイドを始めて4年目という中島すい子さん。東京でバスガイドをしていたが、縁があって魚沼へ移り、ツアーガイドを務めている。雲蝶を調べていくうちに魅せられ、雲蝶の専属ガイドになった。

まず、永林寺へ向かった。本堂へ入ると、いきなり欄間の彫り物に目を奪われる。「透かし彫り」という一枚板を立体的に掘る、いわゆる「レリーフ」だ。精緻さと、今にも動き出しそうな竜や孔雀(くじゃく)、生き生きとした松の木や水の流れに、ため息が出た。本堂左の欄間から、天女が優雅に見下ろしている。
同寺にある雲蝶作品は108点。現存する千余点のうち約1割にも上るという。中島さんは見落としてしまいそうな裏話を、ユーモアを交えてじっくりと聞かせてくれた。
昼食後に西福寺へ。ツアーの目玉になっている開山堂は、内部が雲蝶の作品で埋め尽くされていた。

入ると、壮麗なつり天井の彫刻に圧倒された。「道元禅師猛虎調伏(ちょうぶく)の図」だ。虎に襲われそうになる道元を竜神が守った―という題材を、雲蝶が6年かけて彫った。四方の欄間は道元の逸話を元にした透かし彫りで飾られ、これらを見た古美術鑑定家の中島誠之助さんが「越後のミケランジェロだ」と言ったという。
さらに、穴地(あなち)十二大名神、龍谷寺を回った。龍谷寺の欄間を飾る唐獅子親子の優しいまなざしに雲蝶の人柄が感じられ、超絶技巧だけでなく、「命を吹き込む技」を感じる。
ガイドの中島さんは、調査で魚沼の家々を訪ねると、「雲蝶はうちにも来て、作品を残した」という話をよく聞くという。人々の生活の中に作品が溶け込んでいたことがうらやましく思えた。
六日町観光協会のツアーバスはJR越後湯沢駅発で、2016年11月27日(日)までの日曜・祝日運行。北陸新幹線の高崎経由だと、同駅まで1時間40分ほどで着ける。詳細は同観光協会のホームページで。
(森山広之)
(2016年5月14日号掲載)
=写真1=永林寺欄間の「天女」(NPO法人 六日町観光協会提供)
=写真2=西福寺開山堂。この中に「道元禅師猛虎調伏の図」がある。