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51 荒船山 ~肝冷やす断崖に深刻な食害~

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 4月後半の土曜日、山仲間たちと佐久市・群馬県境の荒船山(1423メートル)に登った。山頂部に台地が広がるこの山は、荒海に浮かぶ船のように見えるのが山名の由来だ。

 7時に長野市内を出発し、佐久小諸ジャンクションから中部横断道へ。佐久南インターで降り、国道254号を県境の内山峠へ向かう。

 秋には沿道にコスモスの花が続くことから「コスモス街道」と呼ばれるが、春はきれいな花桃や桜が目を引く。内山トンネルの手前で旧国道へ入り、しばらく進むと、内山峠手前の登山口に。土曜日とあって数十台止められる駐車場はほぼ満杯だ。

 長野を出る時、晴れていた空は、県境に近付くにつれて雲が厚くなり、今にも雨が降り出しそう。霧が立ち込める中、9時に歩き始める。近くの木には、どう猛な顔写真を載せた「熊注意」の看板が。10分ほど歩くと、色鮮やかなムラサキヤシオツツジの花が頭上を覆う。

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 稜線上を1時間ほど進むと、ほぼ中間点の挟岩(はさみいわ)修験道場跡に着く。裏側から見ると、2本の大岩がはさみのように見える岩壁の下に、幾つもの岩屋がある。付近に礎石もあり、昔は建物もあったようだ。

 その先の水場「一杯水」を過ぎると、ロープやはしごを使う急な上りになる。足元は粘土質で滑りやすい。ここを乗り越えると、山頂部だ。台上一面のササ原にミズナラなどの木々が散在している。

 北側は高さ200メートルもの断崖だ。先端部に「転落注意! 死亡事故発生」の看板が。こわごわ下をのぞいてみるが、濃い霧で何も見えない。

 ほどなく船尾に当たる艫岩(ともいわ)に到着。ここにザックを置き、舳先(へさき)に当たる最高地点の行塚山(ぎょうづかやま)(経塚山(きょうづかやま))を目指す。快適な台上歩きだが、鹿の食害がすさまじい=写真下。ササの葉は見渡す限り食べ尽くされ、枯死同然。途中にある荒船山神社奥宮は、石祠(せきし)を囲むモミの木の皮が食べられ、無残な姿に。

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 狭い尾根上にある行塚山の頂上部は登山者でいっぱい。早々に下り、再び艫岩へ戻る。このころになると空は晴れてきた。昼食後、艫岩の先端部に立つと北側に浅間山がくっきり。その手前の神津牧場から眼下に目を移すと、内山トンネルを抜けた群馬側の国道254号が飛行機から見下ろすように見える。

 艫岩は2009年9月、漫画「クレヨンしんちゃん」の作者・臼井儀人さんが転落死した場所だ。垂直に切れ落ちた岩壁から下を見ると、思わず吸い込まれそうになる。

 帰路は同じコースをたどり、佐久南インター近くの温泉入浴施設で、雄大な浅間山を眺めながら汗を流す。長野インターで降りた後、渋滞に巻き込まれ、帰宅は19時を過ぎてしまった。
(2016年5月14日号掲載)

=写真=高さ200メートルもの断崖上にある艫岩
 
中高年の山ある記