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12 小海線 野辺山 ~高原野菜の一大産地 開拓民の苦労を礎に~

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 JR小海線は、しなの鉄道・小諸と中央線・小淵沢(山梨県北杜市)を結ぶ79キロの非電化路線。標高1000メートルを超える八ケ岳山麓を行く高原鉄道だ。

 古くは蒸気機関車C56形が、その後はディーゼルカーが走ってきた。2007年からは、ハイブリッド車両・キハE200形「こうみ」も走る。蓄電池と発電用ディーゼルエンジンの電力でモーターを回して走る。停車時や発進時はエンジンが動かないので、電車と同じで騒音も振動もなく、快適だ。

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 小諸から小海までは、短い駅間を小まめに停車しながら佐久平を南下。小海からは千曲川渓谷に沿った山岳路線になり、野辺山まで25キロで480メートルの標高差を駆け上がる。

 野辺山は、レタスやキャベツ、白菜など高原野菜の産地だ。広大な畑にポリマルチをかぶった畝が並び、大型トラクターが頻繁に行き来する。

 野辺山の農業が本格化したのは戦後、復員兵や引き揚げ者ら170戸の入植者が荒れ地を開墾してからだ。開拓民は初め、火山灰の土壌と寒く過酷な気候に失敗を重ねた。朝鮮戦争(1950~53年)の特需を契機に、冷涼な気候に適したレタス栽培が増加。昭和30~40年代にポリマルチやトラクターの普及で栽培管理の効率化が進み、大規模な高原野菜生産が確立した。駅前にある南牧村美術民俗資料館が、開拓民の苦労を紹介している。

 野辺山高原では、駅隣接の観光案内所で貸自転車を借り、八ケ岳と野菜畑を眺めながら移動するのがいい。野菜の直売店や野辺山産牛乳を使ったソフトクリーム店にも気軽に立ち寄ることができる。

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 駅から南西に約2キロ、山梨県境に近い踏切付近がJR鉄道最高地点だ。標高は1375メートル。大きな標柱が立っている。C56形が引退した1972年には、全国から多くのファンが集まったという。

 高原にいると、巨大なパラボラアンテナが目に入る。国立天文台野辺山宇宙電波観測所にある電波望遠鏡だ。アンテナは直径45メートル。宇宙からの微弱な電波をとらえる。無料で見学できる。

 高原のはずれに「平面直角座標系第8系原点」という場所がある。北緯36度、東経138度30分ちょうどで、長野・新潟・山梨・静岡4県の公共測量の基準点という。地面に埋め込まれた標石に、訂正のプレートが付いていた。「2011年の東北地方太平洋沖地震で、原点が東へ26センチ動いた」とある。あの地震がこんなところにまで影響を及ぼしたのかと驚いた。
(竹内大介)
(2016年6月11日号掲載)

=写真=レタス畑近くを走るハイブリッド列車(上)/海ノ口にある平面座標系原点の標石(下)
 
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