094 下肢の閉塞性動脈硬化症 ~心臓血管疾患の警鐘 脳を含めて調べ治療~

「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状をご存じでしょうか。一定の距離を歩いたときに、臀部(でんぶ)(お尻)や下肢(太ももやふくらはぎ)が痛んで歩けなくなり、少し休むと改善して、再び歩けるようになる症状です。
 原因は、腰(背骨)の整形外科的な問題による場合と、下肢の閉塞(へいそく)性動脈硬化症による場合があります。

 血流の不足で痛み
 閉塞性動脈硬化症の場合は、骨盤内や下肢の動脈が狭くなったりふさがったりしたために、安静時にはかろうじて保たれていた血流が歩行時には不足し、下肢に十分な血液が供給できなくなるため起こります。

 進行すると、安静時にも痛みが続くようになり、さらには皮膚に潰瘍や壊死(えし)が起こり、足の切断に至ることもあります。

 治療は次の方法で行います。

 (1)薬物治療
 いわゆる「血液をサラサラにする薬」で血流の改善を図ります。

 (2)運動療法
 痛みが生じるくらいの歩行を繰り返すことで、側副血行(自前のバイパス血管)が発達するように促します。

 (3)血行再建術
 カテーテル(細い管)による血管内治療で、狭窄(きょうさく)・閉塞(へいそく)部を開いて大きくする方法や、外科的なバイパス手術で血流を確保する方法があります。

 5年後死亡3割とも 
 閉塞性動脈硬化症による間欠性跛行の症状がある患者さんの7~8割は、5年たっても下肢の症状の悪化がないといわれています。しかし、安心はできません。患者さんの5年後の死亡率は3割に及ぶとも報告されています。

 この病気は、全身の血管の動脈硬化の結果として発症します。同じ理由で、心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管疾患が起こります。閉塞性動脈硬化症の死亡原因のほとんどは、こうした心臓血管系の合併症なのです。閉塞性動脈硬化症は、「心臓血管疾患で命を落とすかもしれない」という警鐘ともいえます。
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 全身の動脈硬化を促進する要因は、喫煙、糖尿病、高血圧症、脂質異常症と
いった生活習慣病です。

 ですから、健康診断の結果や間欠性跛行の症状から閉塞性動脈硬化症が疑われたら、下肢の症状自体の治療だけでなく、脳を含む心臓血管疾患がないか調べ、あれば治療すること、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患を治療することが必要です。かかりつけの医師とよく相談してください。
(2016年7月16日号掲載)

=写真=丸山 隆久(循環器内科部長 心臓血管センター科長=専門は循環器)
 
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