「てんかん」は、子どもの病気と認識している人が多いかもしれません。しかし、近年、高齢になって発症するケースが増えています。
てんかんは、大脳の神経細胞が過剰に興奮してさまざまな症状を起こす病気で、発作を繰り返すのが特徴です。発作の症状は、意識を失って全身を硬直させた後にガクガクと強いけいれんを起こす、けいれんを伴わず数秒~数十秒間意識を失う、体の一部だけがけいれんする―などいろいろあり、発作の頻度も人によって大きく異なります。
検査を行っても原因が分からないことが珍しくありませんが、脳に起こった病気やけがの「傷跡」が原因となることもあります。
症状に注意を
高齢者では、脳梗塞や脳出血、変性疾患、頭部の外傷などにより、脳に傷跡がある人が多くなりますので、その結果としててんかんを発症する人も増えます。日本人の寿命が延びたことで、てんかんの高齢者が増加しているのです。
高齢者のてんかんでは、けいれんを伴わず、意識がぼんやりするだけの症状となることが多いといわれています。発作時は、視線が定まらず、呼びかけても答えない状態が数分間続きます。宙をつかむ、口をペチャペチャと動かすなど、目的のない動きを繰り返すこともあります。
このような発作では、発作中やその前後の記憶が消えてしまいます。しかし、ほとんどいつもと変わらない行動や受け答えができているため、周囲の人は発作に気づかず、本人だけが認知症を発症したのではないかと悩むことがあります。
逆に、本人に発作の自覚がなく、物忘れだけが目立って周りの人が気づく場合もあります。高齢のてんかん患者さんの症状は、認知症と見誤られる可能性があるので、注意が必要です。
内服薬で発作抑える
神経内科を受診した場合は、体の診察のほか、認知能を評価する心理テスト、CTやMRIなどの頭部画像検査、脳波検査などを組み合わせて、慎重に診断します。
てんかんと診断された場合は通常、内服薬が処方されます。高齢発症のてんかんでは、一般に比較的少量の薬で発作を抑えることができます。物忘れがあった人も薬で症状がなくなり、以前の生活を取り戻すことができます。ただし多くの場合は、しばらくの期間、自動車の運転を控えなければなりません。
(2016年7月30日号掲載)
=写真=山本 寛二(神経内科部長=専門は神経内科領域全般、脳卒中、パーキンソン病、認知症、末しょう神経障害、ミオパチーなど)