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55 乗鞍岳 ~ライチョウが迎える3000メートル峰~

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 梅雨明けを待って7月末の土曜日、カルチャー教室里山講座の会員たちと、北アルプス最南端に位置する乗鞍岳の主峰・剣ケ峰(3026メートル)に登った。

 南北5キロにわたり、23の峰と7つの湖沼を抱える乗鞍岳は、雄大なコニーデ型の火山群だ。バスで標高2700メートルの畳平まで行けるため、国内で最も手軽に3千メートル級の峰々に登れる。

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 どんよりとした空模様の中、7時に長野駅前を中型バスで出発。安曇野に入っても北アルプスは厚い雲に覆われ,常念岳の姿すら見えない。旧安曇村を通るころ雨になった。

 だが、奈川渡ダムを過ぎると、雨は上がる。マイカー客がシャトルバスに乗り換える乗鞍高原観光センター前を、バスはノンストップで通過。S字カーブが続く乗鞍エコーラインを駆け上がる。途中で、あえぎながら上る自転車の若者たちを幾人も追い越した。

 10時過ぎに畳平に到着。天気は次第によくなってきた。お花畑の脇の急斜面から登り始める。間もなく幅広い平たんな砂利道に出ると、左手の富士見岳(2817メートル)の山腹にコマクサが群生している。右下には、まだ雪が残る不消ケ池(きえずがいけ)。その上方にコロナ観測所のある魔利支天岳(2873メートル)が見える。

 鞍部(あんぶ)を越すと、正面に目指す剣ケ峰が大きな姿を現した。よく見ると、手前の蚕玉岳(こだまだけ)(2979メートル)にかけての稜線(りょうせん)に大勢の人の列がアリのように見える。

 登山口の肩の小屋で休憩後、本格的な上りに入る。乗鞍が火山だったことをうかがわせる赤茶けた小石がざらつく道は足を取られやすい。朝日岳(2975メートル)の東斜面をジグザグに登り詰めると、眼下に青い雪解け水をたたえた権現池が目に飛び込んでくる。

 その先の蚕玉岳を過ぎた時だ。後方でざわめきが聞こえるので振り向くと、2羽のライチョウがトコトコと斜面を駆け下りてくる。羽から上は夏毛だが、腹から下はまだ白い=写真下。

 一斉にカメラを向ける登山者の前で、ライチョウは岩の上に乗ってポーズを取ったかと思うと、突然飛び立った。反対方向の谷側を200メートルほど飛んで岩陰に消えると、今度はそちらの谷からまた2羽が飛び出し、後を追うように飛び去った。ライチョウがこんなに見事に飛ぶのは初めて見た。

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 売店のある頂上小屋の前を通過し、ひと登りすると、剣ケ峰の頂上だ。南側に御嶽山が間近に見える。長野側に乗鞍神社の信州社、岐阜側にひと回り大きな飛騨社があり、狭い山頂は人でいっぱいだ。

 登頂の喜びに浸る間もなく下山を開始。蚕玉岳で権現池を見下ろしながら昼食を取り、同じコースを下る。肩の小屋からは、コマクサのほか、ヨツバシオガマ、イワギキョウなどの高山植物を楽しみながら畳平へ。

 バスでの帰路は、乗鞍高原で乳白色の温泉に浸り、旧波田町の直売所で特産のスイカを味わった。
(2016年8月20日号掲載)

=写真=山頂直下から仰ぐ剣ケ峰

 
中高年の山ある記