097 肺がんの新薬 ~副作用を軽くする 従来より長く生存~

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 日本人の死因の第1位はがんで、そのうち肺がんによる死亡が最多です。肺がんに対する標準的な治療は、(1)外科治療(2)化学療法(3)放射線治療―の3つです。治療方針は、がん細胞の種類と広がり方、患者さんの年齢や全身状態、合併症の有無などを総合的に判断して決定します。

 (2)の化学療法とは、抗がん剤を用いた治療のことです。以前からある殺細胞性抗がん剤は、「がん細胞を傷害し、死滅させる」のが目標でした。しかし、がん細胞だけでなく、正常な細胞も傷つけてしまうという大きな欠点がありました。

 分子標的治療薬
 傷つけられる正常細胞でよく知られているのは、血液をつくる細胞、胃腸の細胞、髪の毛をつくる細胞、腎臓や末梢(まっしょう)神経などです。これにより、貧血や白血球減少、悪心や嘔吐(おうと)、脱毛、腎障害、手指のしびれなどのつらい副作用が出現します。これらは、程度の差はありますが、投与された患者さんのほぼ全員に現れます。

 これに対してこの10年間ほどで、「分子標的治療薬」が次々と開発されています。これは「がん細胞だけに働き、がん細胞の増殖を抑える」という薬です。副作用として皮疹、下痢、薬剤性肺障害などがありますが、従来の殺細胞性抗がん剤に比べて軽く済むことが多いです。

 治療効果にも優れ、従来の抗がん剤より生存期間が長くなったという報告が相次いでなされており、効果と安全性のバランスに優れた薬剤であるといえます。内服薬であることも利点で、高齢者や全身状態が少し悪化した人にも投与できます。

 さらに新しい薬も
 ただし、すべての肺がん患者さんに使えるわけではありません。適しているとされるのは、(1)小細胞がんでない場合(中でも腺がん)(2)特有の遺伝子変異がある場合(3)基礎疾患に肺線維症がない場合―です。

 人間の体は、有害な病原体やがん細胞などの異常細胞を監視し、これらを攻撃、排除する「免疫」によって守られています。ところが、がん細胞には、免疫の働きにブレーキをかけ、攻撃を回避する性質があることが分かってきました。最近、このブレーキを解除し、免疫の働きを回復させる新しい薬「免疫チェックポイント阻害薬」が登場しました。

 2週間ごとに点滴で投与する薬剤ですが、従来の抗がん剤と比べると、副作用が軽いことが多いとされています。非常に高価な薬ですが、今後、早急に普及すると予想されます。
(2016年9月24日号掲載)

=写真=平井 一也(副院長 診療部長 呼吸器内科部長=専門は呼吸器、肺がんの画像・内視鏡診断と治療、ARDSなどの透過性亢進(こうしん)型肺水腫)
 
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