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15 姨捨 ~スイッチバックの駅 文学碑と棚田を巡る~

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 JR篠ノ井線の姨捨駅(千曲市八幡)は、スイッチバックの駅だ。急こう配や蒸気機関車の給水、列車行き違いなど運行技術上の必要から駅が置かれたという(「更埴市史」)。

 ワンマン電車は稲荷山を出ると、市街地の縁をなぞるように高度を上げていく。姨捨駅では、斜面の上に見える駅を通り過ぎ、待避線に入っていったん停車。女性運転士さんが立って窓から顔を出し、後ろを見ながら片手でハンドルを器用に操作して後退させ、列車をホームへ付けた。

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 上り(塩尻方面行き)ホームのベンチは、線路に背を向けて設けられている。姨捨駅は、大正時代に当時の鉄道省が定めた「日本三大車窓」の一つ。北東を望むと、手前に水田と蛇行する千曲川、奥に市街地が広がる。

 下り(篠ノ井方面行き)ホームは、ホームかさ上げと「展望ラウンジ」設置の工事中だった。来年運行が始まる周遊型寝台列車「トランスイート四季島」が停車し、「夜景バー」になるという。

 駅のすぐ下に「姨捨公園」がある。1918(大正7)年に開園した。訪れる人は少ないが、展望台からの眺めがいい。熟年夫婦がいたので声を掛けると、東京都八王子市から自動車で来たという。「この景色を見られてよかった」と喜んでいた。

 公園から坂を下ると、程なく姨捨観光会館。姨捨を舞台にした文学の展示コーナーやそば店などがある。

 「姨捨=名月」のイメージは、平安時代の「古今和歌集」に収められた歌「わが心慰めかねつ更級や姨捨山に照る月を見て」に始まる。江戸時代には松尾芭蕉が訪れ、「おもかげや姨ひとりなく月の友」の句を残した。

 観光会館隣の長楽寺には、江戸時代半ばに芭蕉の句碑「面影塚」が建立されて以降、句碑や歌碑、漢詩碑が次々に立てられ、境内は碑で埋め尽くされている。一つ一つの碑に解説板が付いていて分かりやすい。

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 長楽寺の東、上姪(め)石・姪石地区には1500枚もの棚田があり、田の間を散策できる。この棚田は、千曲市がオーナーを募って貸し出し、地元農業者団体が日常の管理をしている。首都圏の個人や学校など90組がオーナーになっているという。

頭を垂れた稲穂の上を無数のトンボが飛んでいた。稲の生育が早い今年は、稲刈りのピークは例年より1週間ほど早い18日前後になりそうだという。

 日が暮れるころ姨捨公園に戻り、次第に浮かび上がる夜景を眺めた。姨捨の道は急坂ばかりで足腰への負担が大きい。努めてゆったり歩くのがいいようだ。
(竹内大介)
(2016年9月10日号掲載)

=写真=姨捨公園からの眺望(上)/姨捨駅(左上)を出る長野行き列車。この後スイッチバックし稲荷山方面(奥)へ坂を下る
 
小さな日帰り旅