
戸隠の中社区、宝光社区が選定される見通しとなった国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)。今ある県内6カ所のうち2カ所が、旧木曽郡楢川村(現塩尻市)に隣り合ってある。奈良井宿と木曽平沢だ。
中山道の奈良井宿は、木曽11宿のうち最大の宿場町。約400軒があり、尾張藩の林業振興策で、旅籠(はたご)よりも木工業に携わる家が多かったのが特徴という。
塩尻から中央西線中津川行き普通電車で25分ほど。奈

良井駅を出るとすぐに、宿場の街並みに入る。大火がなく、国道19号のルートから外れたことで、江戸時代の町家が残り、1978(昭和53)年に重伝建になった。
2階の軒が通りに大きく張り出す独特な町家が、南北1キロにわたって連なる。漆器や民芸品の店、そば店や民宿などがつつましく営業していて、のぞきながら歩くのが楽しい。
平日でも観光客が途切れず、フランス語を話す外国人グループの姿もあった。くるみだれの香ばしい匂いにひかれ、五平餅を売る店に人が集まっていた。
宿場町の南端から、木曽路最大の難所、鳥居峠に至る古道が延びる。遊歩道になっているが、けもの道のような険しい山道で、峠まで約1時間。気軽に歩ける道ではないが、昔の人の旅の苦労を想像することができる。お茶壺道中も、皇女和宮の下向(げこう)行列も、この道を通ったのだ。
奈良井駅まで戻り、北へ30分ほど歩くと、木曽平沢の街並みに至る。漆器職人の住まいと作業場が肩を寄せ合うように形づくる町で、2006(平成18)年に重伝建に選定された。
街の外れに、塩尻市が運営する「木曽漆器館」がある。漆器製品や製作道具など3700点余の重要有形民俗文化財を保存し、漆器作りの工程も紹介している。1つの器を作るのに、職人がどれほど手をかけるのかを知ることができる。
職員によると、平沢の漆器店は減ってきたものの、約100店はあるという。町はひっそりと静かで、人通りもない。

町の中心を、奈良井川が北へと流れる。木曽路というと、名古屋へ向けて南流する木曽川の谷のイメージが強いが、中央分水嶺の鳥居峠より北は信濃川水系だ。
奈良井川は松本市で梓川と合流して犀川になる。奈良井から長野市の千曲川合流点まで約120キロ。流速を毎秒1.5メートルとすると、およそ22時間半。普段目にする犀川の水は1日前、ここを流れていたのかもしれない。水の旅に思いをはせる。
(竹内大介)
(2016年11月12日号掲載)
=写真=
趣のある奈良井宿の通り(上)
奈良井川と、それをまたぐ木橋「木曽の大橋」(下)