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087 プラハを巡る 聖ヴィート大聖堂 ~「スラブ叙事詩」のムハ作品~

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 チェコ・プラハ巡りの核の一つであるプラハ城の目玉は、第3の中庭にでんとそびえる聖ヴィート大聖堂だ。

 第2の庭から通路をくぐると、真ん前に立つ教会。ふつう教会の正面には広場があるが、ここのは狭い。通路の目と鼻の先にあり、いきなりぬっと現れる。10世紀に建てられた小型の円形教会に、増改築を重ねて、現在の姿になったのは20世紀になってからだ。

 入場券を購入して内陣へ。ここの売りはステンドグラス。制作者が一つ一つ違い、色も多様である。その中で注目が集まるのは、入って左手前3番目にある作品。フランス語でミュシャとして名高いムハの「聖キリルと聖メトディウス
」である=写真上。

 訪れる観光客の目当ては、やはりこのコーナー。ツアーだと、
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ここでガイドの5分近い説明が入り、ハイシーズンには渋滞になるという。そうした先入観を持たずとも、このステンドグラスの色彩とバランスは神々しい。ムハの心意気が伝わってくる。

 上部に描かれた黒いマントの男たちは、スラブ世界で初めてキリスト教信者になった伝説の人物。さらに注目すべきは、ステンドグラスの中央下に寒色の青で表されているハプスブルグ。その権威の上に、伝説の聖人バーツラフ少年が暖色で描かれている。上部には、スラブ民族の象徴である女神スラビアの姿もある。

 1895年、売れっ子女優サラ・ベルナールの舞台のために制作したポスターがヒットして、ムハはアールヌーボー時代の寵児(ちょうじ)になった。だが、1900年のパリ万博でスラブ民族の文化見直し機運に触発され、民族意識に目覚める。

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 パリでの富と名誉を捨て故国に戻り、20枚の大作「スラブ叙事詩」を完成させた。「スラブ叙事詩」はチェコ東部モラビアの寒村にあったが、近年プラハ国立美術館に移された。それぞれが縦横4メートルを超す作品。ここにはスラブ民族の神話と栄光の歴史が描きつづられている。「原故郷のスラブ民族」や「スラブ賛歌」などに、その強い主張が見てとれる。

 聖ヴィート大聖堂のステンドグラスに、スラブ民族賛歌の思想が根底にあることをしみじみ感じつつ、私は大聖堂で何度も立ち止まり、ムハの力作を目に焼き付けた。
(2016年11月5日号掲載)

=写真=スラブ叙事詩の一つ
 
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