
「合格祈願をする天神様はどこがいいかしら」。孫が受験といい、真剣なまなざしの老婦人から聞かれた。結果責任を問われても困るのだが、独断でお勧めしたのは、長野市高田の川端天神社だ。
国道19号を市役所の前から東へ1キロほど。「守田神社入口」の信号を南に入って約300メートルのところにある。「学問の神様」として知られる菅原道真(845~903年)が祭られている。
1月3、4日、「登竜門祈願祭」が行われていた。入試を控え

「登竜門祭は23回目。先輩の氏子たちの努力で、年々評判が広がってきました」と、氏子役員で、歯科技工士の倉石実さん(68)。祭りの実行委員を務める氏子や地元住民が、社殿の傍らにある氏子会館に詰めて、お札を頒布したり、祈願の受け付けをしたり。神社側も熱気があふれる。
掲げられた説明によれば、川端天神社の創立時期は不詳だが、旧北高田村(川端)の産土神(うぶすながみ)とある。つまり、土地の守り神の氏神だ。
説明はさらに、「この土地は裾花川の支流が流れる荘園だったが、洪水が多く、家や田畑が流されてしまった時に菅原道真の霊像が流れ着き、祠(ほこら)を建てて祭った。戦国時代の永禄年間に改築し、北高田村天神社とした」と、由緒が記されている。
倉石さんが子どもの頃、一帯は辺り一面が田畑だった。「高田という地名は、低湿地の中の安全な高地を示している」という。鳥居の左右の柱には補強の柱が2本ずつ添えられている。水害に強いとされる典型的な作りで、洪水を意識した様子がうかがえる。
各地の天神社は、別の神社の境内か、近くにある例が目立つ。摂社と呼ばれ、関連社、付属社の位置付けだ。氏神神社の多くは「天照大神(あまてらすおおみかみ)」が重んじられる。
だが、ここは天神様が優先。天照皇大神の巨大石碑は社殿の横に立つ。遠慮しているかのようにも映る。
社殿の中には、道真が都をしのぶ絵の奉納額がある。説明板には、都から太宰府(福岡県)に左遷された道真が詠んだ「東風(こち)吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな」も書かれている。登竜門祈願祭では、真っ白な天幕に梅鉢の紋が描かれていた。
「受験生にこれほど手厚く対応しているところは、ほかにないでしょう」と、誇らしげな氏子たち。さて、学問の神様の今年のご利益は、いかばかりだろうか。
(2017年1月28日号掲載)
=写真1=登竜門をくぐる人たち
=写真2=菅原道真が祭られている川端天神社