
人々はふつう、年寄りに見られたがりません。肌のしみを隠し、しわを隠し、白髪を隠します。白髪を隠すなら「毛を染める」わけです。しかし、その毛染め剤(ヘアカラーリング剤)に、かぶれの問題があることが知られるようになってきました。
体中に広がることも
毛染めのかぶれの多くは耳の前後から首の横にかけてあらわれるかゆい皮疹です。おでこから頬に広がり、ときには肩、胸などから体中に広がることもあります。頭皮はちょっと赤いくらいのことが多いため、しばしば見落とされています。
毛染め剤によるかぶれの厄介なところは、色が落ち切るまで続くことです。毛染め剤は一度染めれば、1カ月くらい色が持つように作られています。これは、2カ月くらい色が残っているということ。ですから、かぶれも2カ月くらい続くのです。
その間、バリアが壊れて抵抗力が落ち、皮膚でばい菌などと戦うことになります。首のかぶれから入ったばい菌が、心臓の周りにまで至り、命に関わる病気になった人もいます。
成分の特徴
多くの毛染め剤には「パラフェニレンジアミン」という成分が含まれています。これはプラスチックの材料にもなるもので、毛髪の中で化学変化を起こしてしっかりとした黒い色になります。色合い、色持ちとも毛染めとしては理想的です。
ただし、「アレルギー性の接触皮膚炎」を起こすことがあります。アレルギー性の炎症は、「初回はかぶれない」ものの、「微量でもかぶれる」という特徴があります。
美容院などで毛染めをすると、染めてから2週間くらいは物質が安定しているので、かゆみは出ません。その後、徐々にシャンプーで溶け出してきた毛染め剤が、お湯の流れていく先で肌に触れ、かぶれを起こします。
頭皮はすぐにしっかり流すので毛染め剤が触れる量は少量で済みますが、首や肩などは後で簡単に流すことが多いので、頭皮に比べて長く、たくさんの薬剤が触れることになります。このため、症状は頭皮より首や肩の方が重くなるのです。
ではどうすればいいか。私はリンスタイプのヘアマニキュアを使っています。ヘアマニキュアは表面に塗っているだけなので、簡単に色が落ちてしまいます。週に数回使わなければならないこともあります。しかし、簡単に落ちてしまうことが一番のメリットなのです。かぶれても1~2週間あれば治りますから。
(2017年2月18日号掲載)
=写真=村田 浩(皮膚科部長=専門は皮膚悪性腫瘍)