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096 プラハを巡る マリオネット ~愛され受け継がれる人形劇~

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 マリオネット(操り人形)はどこの国にもあるが、チェコのは特別だ。18世紀から19世紀にかけて欧州全土に広がった。だが、今なお国民に愛されて、脈々と受け継がれているのはチェコ以外にはないだろう。

 オーストリアのハプスブルク家が支配していた時代、チェコはドイツ語の使用を強制され、チェコ語は2級言語として使用禁止の憂き目にあった。劇場などは全てドイツ語。子ども向けの人形劇が「逃げ場」だった。チェコの人々にとって、それが自分たちの文化の発露であり、アイデンティティーでもあった。

 人形劇は、それぞれの時代の権力者や支配層への不満を代弁し、風刺や批評の場にもなった。大人の情報交換の場にもなった。 

 アニメーションといえば、日本ではディズニーや「君の名は。」などのようにラブストーリーの印象が強いが、チェコでは今でも人形劇を元にした独特なチェコ・アニメが主体である。

 世界的な人形アニメ作家のイジー・トルンカ(1912~69年)をはじめ、民話や歴史を伝え続け、国際的な映画祭で賞を獲得するなど、チェコの人形劇は国際的にも評価が高い。

 市民の中で人気のある出し物の一つは、モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」だ。女たらしの主人公に、大人や子供も冷ややかな声を上げる。街頭でも、人形使いがいる。

 カレル橋で、地元ではよく知られた人形使いの名物おじさんに出くわした。それもそのはず、橋のたもとに人形博物館があり、その周囲に人形の専門店が列をなしている。国立のマリオネット作家養成学校(2年制)もあり、国を挙げてこの伝統工芸を守る意識が高い。小学校には年に1度、劇団が巡回し、人形劇の継承に取り組んでいる。

 最も人気のある人形は、悪知恵の働くフルヴィネックと父のスペイブル。息子が父をやり込めるのだという。伝統だけに頼らず、毎年新しいキャラクターが創作されている。
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 プラハ城敷地内の黄金小路にある人形店に立ち寄った。ピノキオやピエロ、魔女をはじめ、人気作家のハシェク、そのキャラクターの兵士シュヴェイクと、多数の人形が並ぶ=写真。アニメ映画の主人公である森の妖精や、スペイブルとフルヴィネック父子もあった。

 人形を買った私に、店の女性主人は、扱い方の説明をしながら「人形は菩提(ぼだい)樹の木から作る。素材が硬いこともあるけれど、木に神聖さがあるの。大切にしてね」と言った。
(2017年3月18日号掲載)
 
ヨーロッパ美の旅