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098 プラハを巡る メトロノームの丘 ~てっぺんに市民の憩いの場~

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 北の郊外にある小高い「レトナーの丘」は、観光客にはあまりなじみがないものの、プラハの人たちの憩いの場になっている。ブルタバ(モルダウ)川を挟んでユダヤ人街(ヨゼホフ)の対岸にあり、丘のてっぺんに巨大な鉄製の赤いメトロノームがある。

 遊覧船で巡っている時、川からメトロノームがかすかに見え、船長が説明をしてくれて、ここを知った。宿泊先のホテルでもフロントの一人が、丘から見た川と橋の連続した画像が写ったスマートフォンを得意げに私に見せた。

 路面電車を降りて丘に通じる石の階段を登り切ると、想像以上に大きなトライアングルが目に飛びこんで来た。

 大学を中退し、ほかの大学に再挑戦するため、気分転換によく来るという青年がこう説明してくれた。

 「かつて社会主義の圧政時代には、スターリンの像や追随する彫刻があり、市民から『肉屋の行列』とやゆされていた。体制崩壊と共に破壊され、今度は何を造るかが議論されて、この形になった」

 チェコの指揮者らによる作だという。メトロノームは「体制が左に揺れるか、右に揺れるかを示す」というわけだ。今は止まっていた。

 ここからは、ブルタバ川下流にマーネス橋、カレル橋、チェコ軍団橋が連なり、遊覧船の行き来が見える。「憩いの場」と言うにふさわしい。近くの散策コースを歩くと、地元の老夫婦や家族が犬を連れて散歩したり、ベンチに腰かけて日光浴をしたり。プラハ市民の日常を垣間見ることができる。

 ベンチでくつろいでいた一人の若者に声を掛けてみた。笑顔が爽やかな男性で、プラハで新しい人生のスタートを切りたいと、トルクメニスタンからやって来たという。けれども、「だまされてパスポートも金も盗まれてしまった」と話した。
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親は早く帰って来いというが、まだ若いから何とかやっていきたい―。そんな思いを口にした。旅の地で無心にくる地元の人に金銭を渡す行為はしないが、楽しい語らいのお礼として、カンパすることを考えた。別れ際、日本円で2500円ほどになる札を差し出すと、驚いた表情。「君の将来を期しての励ましだ」と言うと、ためらいながら礼を言って受け取ってくれた。
(2017年4月1日号掲載)

=写真=丘のてっぺんにある巨大なメトロノーム
 
ヨーロッパ美の旅