108 パルスオキシメーター ~酸素飽和度を測る わずかな変動把握~

 病院で診療を受けるとき、「酸素を測る器械です」と説明されて、手の指先にプラスチック製のクリップを付けられることがあります。これは「パルスオキシメーター」という医療機器で、医療現場の至る所で使われています。

 血液の色変化測定
 私たちが生命を維持するためには、呼吸によって体内に入れた酸素を全身に供給し続けることが欠かせません。酸素の大部分は、赤血球の中のヘモグロビンという色素と結合することで、全身に運ばれます。

 酸素と結び付いた「酸化ヘモグロビン」が多いと、血液は鮮やかな赤色になります。逆に酸素と結合していない「還元ヘモグロビン」が多いと、血液は暗い赤色になります。酸素と結び付いているか否かで色が変わるのです。

 パルスオキシメーターは、この原理を測定に用いています。皮膚に2つの波長の光(赤色光と赤外光)を当てて、吸収されずに皮膚を透過した光を受光部で受けることで、酸化ヘモグロビンの割合(酸素飽和度)を計算します。

 皮膚の下には動脈、静脈、毛細血管が流れていますが、測定に必要なのは動脈血の酸素飽和度だけです。動脈は拍動していますので、拍動に伴って変化する成分だけを取り出して計算する仕組みになっています。

 全てのヘモグロビンが酸素と結合していれば、酸素飽和度は100%になりますが、普通は正常な呼吸機能の人で95%以上の値を示します。90%未満になると、体内に十分な量の酸素が取り込まれていない低酸素の状態、いわゆる呼吸不全の状態と解釈されます。50%未満まで低下すれば、心停止が間近に迫っている状態で、一刻を争う処置が必要になります。

 安全性向上に貢献
 パルスオキシメーターが登場するまでは、手術や麻酔中の患者が低酸素状態にあるかどうかは、手術している場所の血液の色、爪や唇の色を参考に麻酔科医が感覚で判断していました。これでは手術中に生じやすいわずかな変動は捉えきれません。

 パルスオキシメーターは、連続的な測定により全身状態の突然の変化に対応できること、体に傷を作らずに測定を行えること、シンプルな構造で簡単に装着できること、装着後数秒で測定値を表示でき、緊急時の対応にも優れていること―などの利点があり、医療の安全性向上に大きく貢献しています。
(2017年4月8日号掲載)

成田昌広=麻酔科部長、手術センター長=専門は麻酔科

 
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