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100 チェコの地方巡り 焼き菓子~突然の素晴らしい出会い~

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 プラハから東へ100キロ余のパルドビツェ。ここに、「ペルニーク」という美しい焼き菓子がある。見てみたいと電車に乗り込んだ。パルドビツェは、独特な伝統菓子の街として知られているという。

 ところが、目当ての店を周囲の人たちが知らなかった。住所を示すと、「バスに乗ってみろ」という。停留所で降りて、居合わせた人に店の名前を聞いても、けげんな顔をされた。

 思わぬ出会いは突然だった。「日本の方ですか。私は日立(茨城県日立市)に7年いました」と、ひげ面の中年男性にちょっと怪しげな日本語で話し掛けられ、面食らった。事情を告げると、男は「その店は2年前に畳んでしまいました」。さらに、「この街には幾つかペルニークの店があります。会社は違いますが」と付け加えた。

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 別の店を勧められ、歩いて5分。店にはカラフルな焼き菓子が並ぶ。ペルニークは、小麦粉の生地に蜂蜜やシナモンなど数種類の天然の香料を練りこみ、手で色付けして焼くジンジャー・ブレッドの一種だ。半年は持つという。市内に5つの工場と14の店がある。練りこむ材料はそれぞれの企業秘密だ。

 ここの女性店主はチェコ語かフランス語だけ。困惑する私に後ろから声がした。ひげの男性だ。「あなたが戸惑っていたので、付いて来ました」といい、通訳してくれた。

 それによれば、各工場でデザインに個性があり、オーソドックスなものから子ども受けするものまでさまざま。「ペルニーク・ヤノス」は、旧来の模様が中心で、市のシンボルになっている馬のデザインが多い。一つ100円から3千円程度が主流。希望があれば名前入りのオリジナル製品も工場で作る。

 声を掛けてきた男性はヤン・ジシカさんといい、日立で、技術者として7年間、働いたことがあり、学校で技術科を教えていたとのことだった。「もし時間あれば、旧市街を案内しましょうか」と誘ってきた。

 この人はさくらかなあ...。私はまだ警戒心が解けずにいた。だが、連れて行ってくれた旧市街は、この懸念を吹き飛ばした。市の紋章である馬のタイル、イエスを身ごもった聖母マリアの石像、中央広場に美しい建物群。奥にあった領主の城館も立派だ。ジシカさんは、たかりでもさくらでもない、誠実な人だった。
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 帰国後も、40回を超すメールやクリスマスカードが送られてきた。地元の自然の写真をメールに添付する心遣いもある。「上達してほしい」と、チェコ語のメールも届く。その都度、ねじり鉢巻きで、チェコ語の辞書を引く自分に苦笑する。美しい田舎町の素晴らしい出会いに感謝している。
(2017年6月10日号掲載)

=写真1=店に並ぶ美しい焼き菓子
=写真2=ヤン・ジシカさん
 
ヨーロッパ美の旅