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24 小諸 ~昭和の趣残す風情 穴城見下ろす城下町~

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 小諸は、しなの鉄道で長野から1時間余り。かつて特急が停車した商都は、新幹線のルートから外れたことで商業の落ち込みが大きいという。

 しかし、駅を出て街を歩くと、ほっと心が安らぐのを感じる。再開発された各地の新幹線駅の街が画一的でのっぺりとした印象を与えるのに対し、昭和の趣を残した商店街や歓楽街のたたずまいに、ひなびた風情と落ち着きがある。

2012年放送のテレビアニメ「あの夏で待ってる」の舞台に
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なったのも、そのせいかもしれない。観光案内所の女性によると、作品の「聖地巡礼」をするアニメファンが、国内はもとより中国や台湾からも訪れている。夏祭りには、ファンが連をつくり、みこしを出しているという。

 小諸城は、城が城下町より低い所にある珍しい立地で、「穴城」と呼ばれる。天然の深い谷を空堀に利用して造られた。城域をしなの鉄道が突っ切っており、大手門は線路の東に、城跡の懐古園は西にある。

 懐古園には、立派な石垣など城の遺構がよく保存されている。今の季節は濃い緑に包まれ、爽やかだ。ベンチやトイレがあちこちにあり、観光客に優しい。

 島崎藤村は1899(明治32)年から6年間、私塾の教師として小諸に住み、「小諸なる古城のほとり...」で始まる「千曲川旅情のうた」などを生んだ。懐古園内の記念館に展示された自筆の原稿や書が、きちょうめんな性格を伝えている。

 小諸は北国街道の宿場町でもあった。宿場だったのは国道から外れた本町や荒町で、商店が古い看板を掲げて営業している。「山吹味噌」で知られる信州味噌(屋号・酢久)もその一つ。立派な瓦ぶきの門や土蔵が目を引く。

 街道沿いには、市立の「小諸高浜虚子記念館」も。俳人の虚子は1944(昭和19)年から3年間、鎌倉からここに疎開していた。「ラジオよく聞こえ北佐久秋の晴」などの句を作った。

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 上信越道小諸インター近くには「マンズワイン小諸ワイナリー」があり、見学できる。マンズワインは、山梨県甲州市の勝沼ワイナリーで手頃な価格のワインを大量生産し、小諸ワイナリーでは高級ワイン「ソラリス」シリーズを少量作っているという。

 「ソラリス」は500円で3種類を試飲できる。敷地内で栽培したぶどうのみでぜいたくに作ったという「小諸メルロー」は、ぶどう自体のうま味とふくよかな香りのバランスが良く、うまかった。
(竹内大介)
(2017年6月10日号掲載)

=写真=緑の濃い懐古園の園内(上)旧宿場町の通りには、瓦屋根に白壁の建物が点在する
 
小さな日帰り旅