「北アルプス国際芸術祭」が7月30日(日)まで開かれている大町市を訪ねた。長野駅東口から、アルピコ交通の特急バスで1時間10分。JR信濃大町駅前に芸術祭の案内所があり、鑑賞パスポートを販売している。
芸術祭の会場は市街地、東山、仁科三湖、源流、ダムの5エリアに分かれ、34カ所に国内外の現代美術家の作品がある。市街地エリアの10作品を歩いて巡った。
駅から北へ延びる県道が、大町の中央通り。アーケード商店街だ。1998年の冬季五輪の後、核店舗だったジャスコ大町店の郊外移転、近くにあった東洋紡の工場閉鎖、商店など10棟を焼く大火があった。空き店舗が増え、空洞化が進んでいる。
その空き店舗や空き家、古い土蔵などが展示会場になっている。一歩入ると、暗がりと静寂の中に幻想的な影絵の世界が現れる。梁がむき出しになった空き家の中に、巨大な北アルプスと黒部ダムが作られている。住居兼ピアノ教室だった建物の各部屋が、カラフルでシュールなオブジェで埋め尽くされている。
作品をたどって、普段足を踏み入れない街を歩き、建物に入る。そこにあるのは、大町の人々が作ってきた生活の歴史だ。芸術家が創造した世界を通じて、大町という土地や人の営みについて考えさせられた。空き店舗が増える中で、昭和の面影を残す個人商店が踏ん張っていることも肌で感じることができた。
昼食は、市内19店で提供されている名物「黒部ダムカレー」にした。ご飯とカレーがダム堰堤とダム湖を模して盛りつけられ、遊覧船の代わりにフライが浮かぶ。黒部ダムさながらのボリュームに、腹が苦しいほどだった。
中心市街地の一角に、歴史博物館「塩の道ちょうじや」がある。江戸時代に庄屋・塩問屋だった平林家の建物に、「塩の道」千国街道に関する展示がある。

大町は、中世にこの地を500年間支配した仁科氏が街を築き、江戸時代は松本藩の出張所が置かれた。千国街道の宿場町、麻の集積地としても栄えた。
平林家が商った塩は、糸魚川から歩荷(ぼっか)が背負って運んだ。上杉謙信が武田信玄に塩を送った際も、塩は糸魚川から大町、松本、諏訪のルートで甲斐まで運ばれたという。
商店街の先に若一王子神社がある。広い境内に県宝の三重塔があるのは、神仏習合時代の名残だ。夏祭りで10人の少年が馬上から矢を射る珍しい「流鏑馬(やぶさめ)神事」が有名で、今年は7月23日(日)に行われる。
(竹内大介)
(2017年7月8日号掲載)
写真上=信濃大町駅前の中央通り
写真下=元ピアノ教室の建物に出現したアート(コタケマンさんの「セルフ屋敷2」)