記事カテゴリ:

104 アイルランド タラの丘 ~アイリッシュ魂 故郷の地

0729binotara.jpg
 学生時代、友人に強く勧められて借りた分厚い小説があった。1カ月かかって、ようやく読み切った。「風と共に去りぬ」である。アイルランド系米国人マーガレット・ミッチェルの大作。米南北戦争時のアトランタを舞台に、南軍側から見た壮大な歴史ロマン小説だ

 それ以上に有名にしているのは、ビビアン・リーが演じた映画での主人公スカーレット・オハラの強烈な個性。クラーク・ゲーブルが演じるレット・バトラーとの激しい恋の行方に、心をときめかせたものだ。オハラという名字もアイリッシュだ。

 当時、私にはどうしても分からなかったことがあった。オハラ家で再三使われた「タラに帰る」という言葉。また、BGMも「タラのテーマ」。このタラに悩まされた。

 ケルト文化やアイルランドという国を学んでいくうちに、首都ダブリンに近いドロヘダという駅の近くに、タラの丘があり、この丘こそがアイルランド人の魂の故郷だと知った。アイリッシュのマーガレットにとって、タラは特別な場所だった。だから、私も旅初日の訪問先に、タラの丘を選んだ。

 ミース州ナバンにその丘はある。一見、何の変哲もないこんもりした丘だが、この頂には鉄器時代の(要)(よう)(塞)(さい)跡がある。「王の(砦)(とりで)」と名付けられていた。

 中心に高さ1メートルにも満たないリア・ファルと呼ばれる立石がある。別名「運命の石」。王の中の王(上王)が、ここで即位の儀式を執り行った聖地である。上王がこの石に触れると、うなり声を上げたという伝説もある。

 ヨーロッパの先住民だったケルト人が、古代ローマ軍やゲルマン民族に追われて、たどり着いた最西端の島には先住民族がいた。この立石は5千年も前のものだという調査報告がある。

 参加した1日ツアーは、大半が欧米のアイルランド系の人々であり、米カリフォルニアから来たジェフさん夫妻は「妻のアイデンティティーとしてのタラの丘を一度は訪れてみたかった」と答えた。ここは日本人にとって伊勢神宮のようなものだろうか。

 ダブリンには、駅名や店やパブをはじめ、そこかしこにタラという名前が見られる。ガイドのケリーさんが「タラと聞いてすぐに思い出されるのは何か」と問い掛けると、参加者はすかさず「風と共に去りぬ」と一斉に答えた。
(2017年7月29日号)

写真=タラの丘にある要塞跡の立石
 
ヨーロッパ美の旅