
典型的な中山間地の小川村は、緑豊かな自然と、平安時代から貴族所領の荘園があったとされ、歴史探訪に興味をそそられる村だ。村の東北部に位置し、県宝「三重塔」がある真言宗豊山高山寺は、その象徴の一つだ。
信濃三十三番札所の結願寺でもある高山寺には、平日も県内外から訪れる観光客が少なくない。「こんな山の中にこれほど立派な三重塔があるなんて」と感心しきりの参拝者。天気が良ければ、北アルプス一望の絶景だ。
寺伝によれば、高山寺の創建は平安時代の大同2(807)年。坂上田村麻呂が、戦勝祈願のため建立したのが始まりといわれている。三重塔は建久6(1195)年に源頼朝が建立し、江戸時代元禄年間に再建されたと記されている。県宝指定は1985年。その後「昭和の大改修工事」が行われた。
現在の住職は小泉栄葵さん(36)。今春、赴任したばかりだ。隣の長野市中条にある正法寺(しょうぼうじ)で生まれ育ち、真言宗豊山派総本山の長谷寺(奈良県桜井市)で2年間修行。全国の大寺を転勤して、故郷に戻った。
小泉さんは、元禄時代に三重塔改築を推進した木喰上人山居の功績をはじめ、善光寺平から安曇野、松本平に広がる信徒や信仰について、訪れた人に解説する。
「坂上田村麻呂から、室町時代初期の小笠原長秀と東北信連合軍による『大塔合戦』、川中島の合戦、江戸時代の観音札所巡りのエピソードまで紹介するので、大変」と汗だくだ。
小川村は「自立の村づくり」を掲げている。豊野町と戸隠村、鬼無里村、大岡村が2005年に、信州新町と中条村が10年に、近隣町村が相次いで長野市へ合併する中、小川村は08年の住民投票を経て、自立の道を選んだ。

現村長の伊藤博文さんは「独自の自治」を旗印に、観光立村と雄大な歴史で村のPRに力を入れる。愛知県東浦町から観光と歴史で提携したいというラブコールを実現したい―と意気軒高だ。
「徳川家康の生母・於大さまのルーツである水野氏が戦国時代初期に敗戦して、信州の辺境に追われ、約100年間蟄居したのが、小川村内の古跡・古城(ふるじょう)なのです」と説明する。水野家があったのが東浦町である。
村内にプラネタリウムを備え、星空観望は小川村の観光ポイント。「天空に一番近い小川村で願をかけませんか」。標高840メートルにある高山寺住職の小泉さんも、説教の弁舌に熱が入る。
(2017年8月26日掲載)
写真上=県宝に指定されている高山寺の三重塔
同下=訪れた人たちに解説する小泉栄葵さん(左)