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106 アイルランド 妖精伝説 赤い帽子のレプラコーン

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 1937年に長編カラーアニメ映画「白雪姫」を製作した米国のウォルト・ディズニーが、アイルランド移民の子孫だと知る人は少ない。「ガリバー旅行記」を書いたジョナサン・スウィフトはアイルランド人だ。小人や巨人の国の世界を表した背景には、アイルランドに伝わる妖精伝説のベースがある。

 アイルランド各地の丘に住むという妖精を、ダーナ・シーと呼ぶ。ダーナ神族は魔の雲に乗って来たとされ、アイルランドのケルト人は「ダーナ神族」と自負する人も多い。シーとは土の下に住む神々のことである。

 数多くの妖精の中で日本人に最もなじみ深いのは、赤いとんがり帽子をかぶった妖精レプラコーンだろう。

 車でアイルランドの国内各地を回っていると、庭先にレプラコーンの人形。「レプラコーンの飛び出しに注意」というかわいい道路標識もあった。

 緑色の服に赤い三角帽。おしゃべりが好きで、人間に時にはいたずらをし、またある時は金貨もくれる陽気な妖精だが、ずる賢いところもある。靴職人でもあり、サンザシの木の周りを好んで遊ぶという。

 ノーベル文学賞受賞者のW・B・イエーツは「妖精物語」を著している。その世界の一端を知りたくて、「国立レプラコーンミュージアム」を訪れた。

 入り口のホールには、妖精とその魔術の説明が書かれていた。扉を開くと、巨人の部屋。巨大な椅子に子どもたちがよじ登ろうとしている。いや、ガリバーさながら、私たちが小人になったのかもしれない。部屋を移動するたび、小人の妖精が隠れていそうな井戸や土の下がある。ガイドは照明と巧みな話術で盛り上げる。

 イエーツが自分で妖精を創作したのではない。民間に伝わる伝承を聞き書きしたのだ。彼の意図したことは、郷土愛や自然愛を喚起し、ひいてはケルト民族の誇りを与えて、アイルランドへの愛国心を奮い起こしたいといういちずな心だった。それが後に、国内の文学ルネサンスとして開花したと言えるだろう。

 車で島を一周している間、若者にレプラコーンについて尋ねたら、「あれはジョーク」と一笑に付されたこともあった。けれども、現代には、ディズニーのようにおとぎ話を信じるような心もほしいと思う。
(2017年9月2日掲載)

写真:個人の家々にも多い妖精レプラコーンの人形

 
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