
長野市若穂綿内の千曲川右岸堤防。堤防ののり面に生い茂った雑草の上を、河川敷から吹き上がる秋風に乗って、優雅に舞う。4年ぶりに訪ねた9月初旬、長さ数百メートルの範囲に20匹以上のジャコウアゲハが乱舞していた。
アゲハチョウほどの大きさで、雄は黒っぽく、雌は白っぽい色だ。春先から秋にかけて、ほぼ2回、発生を繰り返す。
限られた範囲だけに生息するのは、堤防の雑草に交じってウマノスズクサが生育しているためだ。ジャコウアゲハはこの植物だけに産卵する。幼虫は葉を食べて育ち、さなぎから成虫になる。共生関係にあるが、ウマノスズクサに含まれる毒の成分を体内に入れ、鳥など外敵から身を守るためともいわれる。
この植物をめぐり、2012年夏にちょっとしたことが起きた。ジャコウアゲハと食草を同じにする外来種のホソオチョウが、突然大発生。ロシア南東部から中国、朝鮮半島に生息し、本来日本にいるはずのないチョウだ。人為的に持ち込まれたのではないかと推測されている。
発生時期がほぼ同じで繁殖力が強いホソオチョウ。大量の幼虫はウマノスズクサをわれ先に食べ尽くし、在来のジャコウアゲハの減少が懸念された。県はチョウ研究家らとともに成虫や幼虫を徹底的に駆除。どうにか2シーズンで拡大は食い止めることができた。
多年草のウマノスズクサは、かつて中小河川の堤防や土手、農耕地の道端などで見られたが、開発や踏みつけなどで減少。県の絶滅危惧種指定になっている。堤防を管理する国交省千曲川管理事務所は、一帯の除草をジャコウアゲハの活動状況を見ながら実施。希少種ウマノスズクサを大切に見守っている。
(2017年10月14日掲載)
写真:千曲川堤防の草むらを優雅に舞うジャコウアゲハの雌=長野市若穂で9月4日撮影