
吸蜜のツマグロヒョウモンが10匹余り、長野市石渡の家庭菜園畑脇で、満開のマリーゴールドの群落で乱舞する。オレンジ色の雄の方が多く、和名ツマグロ(褄黒)の由来とされる羽の先端が黒いカラフルな雌は少ない。時折、接近した雌雄がぐるぐる回転を始める。求愛行動だろうか。戯れる行動は移動しながらしばらく続く。
タテハチョウ科で、羽を広げると6、7センチで食草はスミレ類。もとは南方系のチョウで、長野県内には見られなかった。近畿地方までだった分布域が拡大を始めたのは1980年代。90~2000年代にかけて東海から甲信越、関東へと一気に北上した。
県内では90年代後半から急増、長野市では99年秋ごろから一気に見られるようになった。このころ南信でも、飯田市の日本(鱗)(りん)(翅)(し)学会信越支部長の井原道夫さん(77)が記録。「98年には数が増えたなと思っていたら、翌年は大発生した」
北上の理由の一つに地球温暖化が考えられる。環境省は身近な生き物と環境の変化を通し「失われゆく生物多様性」を考える市民参加の調査「いきものみっけ」を2008年から実施。ツマグロヒョウモンも指標動物として指定され、今年も「北上するいきもの」として、クマゼミとともにはがきやメールなどによる確認情報を収集した。
かつてのモンシロチョウのようにごく普通に見られるチョウになったが、北上の理由を「人工的に作られた日当たりのよい環境が整ったところへ、多量の幼虫が、園芸種のビオラやパンジーとともに持ち込まれて越冬できる可能性が高まった」と同学会評議員の田下昌志さん(55)=長野市。温暖化に複数の条件が重なったとみている。
(2017年10月28日掲載)