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109 アイルランド 聖パトリック ~カトリック教徒が多い国

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 アイルランドにカトリック教徒が圧倒的に多いのは、聖パトリックに負うところが大きい。この国出身の人の名前に、パトリシアとかパトリックが多いのは、彼の名を模したからである。

 5世紀、パトリックはローマが支配する英ウェールズに生まれた。16歳の時に海賊にさらわれてアイルランドで奴隷の身になり、6年間羊飼いの労働をした。森に入って逃れた時には、オオカミの恐怖や飢えに苦しんだが、一軒の農家に助けられた。

 帰国した彼は、奇跡を神に感謝して修道院を渡り歩きながら、神の声を聞いた。家族とも別れたが、452年に僧として故国に戻る。クローバーに似た三つ葉のシャムロックを片手に、「同じ茎から三枚の葉が生えるのだ」と、三位一体を説いた。

 パトリックの偉大さを証明する一つに、十字架がある。世界共通の十文字のクロスに、伝統的な円を中央に配したハイ・クロス(ケルト十字)を認めたことだ。強権的な指導者は、自分の権威を示そうと、自分の意のままにしようとしたがる。パトリックは、地元の風土や習慣を尊重した。

 こうした柔軟性のある姿勢が国民を一つにした。余談だが、「国内には蛇がいないのは、パトリックが追放したから」という伝説がある。
 3月17日の命日「セント・パトリックス・デー」は、彼をたたえてマメ科のシャムロックの緑を前面に出してパレードをする。米ニューヨークなどでは大規模な行進が毎年見られる。ちょうどこのころ、私はダブリンにいた。周囲の店や飾りは緑一色。パトリック大聖堂は大勢の人でごったがえしていた。

 この1週間後の24日は「スイセンの日」。これは、がん撲滅を祈念し、スイセンの造花を2ユーロで買って胸に飾って街頭に出る。

 日本と同様、アイルランドでもがん対策に力を入れている。私も10年余り前に、がんで右腎臓を摘出しており、無関心ではいられなかった。市民や旅行者が胸元に挿した小さな黄色い造花に、緑とはまた違った温かな希望を感じた。
(2017年11月4日掲載)

写真*「セント・パトリックス・デー」で緑色の帽子をかぶる人たち
 
ヨーロッパ美の旅