健康に欠かせない食物繊維。野菜、果物、穀物のうち、どれから取れば、糖尿病の予防効果が最も高いと思いますか。
答えは、穀物です。2016年には、米国と英国の科学雑誌に、「全粒粉穀物を取る人は死亡率、循環系疾患、がん死亡率が低い」ことが報告されました。
これは画期的なことです。一つの食材で健康が手に入るという報告は、これまでほとんどなかったからです。
一部のスーパーマーケットでは、全粒粉パスタや全粒粉ペンネが売られています。しかし、扱う店が少なく、パスタばかりでは日本人向けとはいえません。
日本人の主食はやはり米です。簡単に穀物の繊維を取るには、米に大麦を混ぜて調理し、食べるのが一番です。
白米が原因の脚気
江戸時代、地方から江戸に移り住むと脚気(ビタミンB1欠乏症)になるというのは有名な話で、「江戸患い」と恐れられていました。地方では玄米や雑穀が食べられていたのに対し、江戸では白米が食べられていたからとされています。白米は、精米することでビタミンB1が含まれる胚芽をそぎ落としてしまうのです。
明治時代には、白米を食べていた海軍と陸軍で、多くの兵士が脚気で亡くなる事態が起きました。
これについて海軍では、軍医の高木兼寛が、白米に原因があると考え、白米に大麦を混ぜて麦飯にすることで脚気を予防しました。一方、陸軍では、軍医の森鴎外がこの考えに反対し、日露戦争では多数の戦死者とともに脚気での死亡者も出してしまいました。その後、陸軍でも麦飯を導入しました。
好みの割合で炊く
第2次大戦後、栄養事情が改善し、白米を食べても脚気を起こすことは少なくなりました。さらに1950年に池田勇人蔵相(のち首相)が「貧乏人は麦を食え」と発言したとされることで、麦は貧乏人が食べるものとレッテルが貼られてしまいました。現代の私たちは、白米を食べるのが普通になっています。
現在、店で売られている米と麦の値段は、ほぼ同じです。また大麦の中でも、水溶性繊維を含んでいる「もち麦」は米の2倍近くする高級食材です。
大麦(押し麦)は、米と1対1、あるいは7対3など、お好みの割合で、炊飯器で簡単に炊くことができます。健康づくりのために試してみてください。
内分泌・代謝内科部長、糖尿病・腎センター長、健診センター長=専門は糖尿病、内分泌・代謝疾患
(2017年11月25日掲載)