辰野町の小野と信濃川島を訪れた。JR中央本線辰野支線の小野駅で下車。かつては松本と新宿を結ぶ動脈路線だったが、1983(昭和58)年に塩嶺トンネルが開通。本線はそちらに移り、現在は1時間に1本程度の列車が走るローカル線だ。
小野は山あいに囲まれた複合扇状地の緩やかな傾斜地が広がる。街の北半分は塩尻市という珍しい行政区分となっている。
国道153号線を南に歩くと、昔ながらの立派な町並みが現れた。三河(愛知県)へと続く三州街道の小野宿だ。1601(慶長6)年から15(元和元)年ごろまで、中山道として木曽と江戸を結んだ歴史もある。
建物の屋根には「雀おどり」の飾りが付けられ、中南信の宿場に特徴的な「本棟造り」が格式を物語る。ただ、目の前を通る国道は乗用車やトラックの往来が激しく、落ち着いて景観を楽しめないのが残念だ。
国道を南下し、線路を渡って旧街道を約3キロ歩いて信濃川島駅へ。同駅は横川川の上にホームがある珍しい駅だ。近くのバス停から町営バスに乗り、横川ダムへ向かう。
狭い山の間を抜けると、平野部と集落が現れた。かつてこの地域は川島村と呼ばれ、1956(昭和31)年に辰野町に編入された。駅からは集落が見えないので、あたかも秘境のような印象だ。ちなみに信濃川島駅は、同村が太平洋戦争中から足掛け12年にわたる熱心な陳情を続け、55(昭和30)年に開業した。
道は山の形に沿って曲がりくねる。急斜面に高く積み上げられた石垣の上に立つ家は、本棟造りのように屋根の勾配がゆるやかだ。
バスは山奥へ進み、駅から30分ほどで横川ダムに着いた。治水用として造られ、ダムの上を歩くことができる。この日はあいにくの雨だったが、紅葉が真っ盛り。三百六十度素晴らしい眺めが楽しめた。
ダムから奥は約18キロにわたって横川渓谷が延び、森林の中をトレッキングができる。今回は時間がないので、機会をあらためて訪れてみたい。
バスでここまで来たのはいいが、訪れたのは土曜日で、ダムまでの便が朝と昼の2本しかない(日曜祝日などは運休)。3・5キロ下の宿泊温泉施設「かやぶきの館」に夕方のバス(土曜日の最終便)が通るので、歩いて下った。

同施設は入浴だけでも利用できる。地元産のそばと温泉を堪能し、ひと休み。辰野駅までバスで戻った。
(森山広之)
(2017年11月11日掲載)
(上)横川ダムから見た川下の眺め
(下)小野宿の「旧小野家住宅」