
ホンドギツネは、2018年の干支であるイヌ科に属する。本州や四国、九州に生息し、北海道のキタキツネと区別されている。近年は市街地に出没するようになった。
数年前から、長野市東和田の和世田神社一帯や、南堀の信大付属長野小、長野中学校の北に広がる田園地帯などでの目撃情報を聞いていた。私も、2013年初夏の夕暮れ時、平林街道を横断する姿に出くわした。その南側で夜明け前に、また、夜遅くに長野電鉄付属中学前駅の住宅街などでも見ている。
「きっとどこかに営巣場所がある」。そんな期待を持ち続けていたところ、2017年9月、知人から「今もいるはず」との有力情報を得て、朝陽地区内にある寺を訪ねた。赤外線センサー付きカメラを設置させてもらうと、しっかりとキツネの姿を捉えることができた。
話は5、6年前にさかのぼる。住人の女性(51)の母親が、日頃あまり行かない庫裏の裏で、100個ほどにも及ぶ靴やサンダルなどの履物を見つけた。気を付けて見たところ、キツネを確認。このいたずらの主が分かった。野生動物がしたこととはいえ、近隣の迷惑になってはいけないと、侵入しそうな場所には全て網を張った。

「でも、彼らだって生きるのに必死。穴も掘るし...」と住人の女性。住宅が密集する市街地で、本堂や庫裏、鐘楼、墓地、駐車場など、3ヘクタール以上に及ぶ広大な敷地だ。静かで居心地がいいのか、防犯用センサーに反応したり、鳴き声を聞いたり、鳥の羽が散乱していたりと、痕跡はあちこちに。墓地で4匹の親子が日なたぼっこしているのを見たこともある。
履物が見つかった時にはテレビで放映され、話題になった。「大方の人は好意的だったが、中には迷惑顔の人もいた」という。降ってわいたこととはいえ、「被害者はこちら」と、寺は困惑気味だ。
イノシシ、ハクビシンなど新顔の野生動物が市街地に現れるようになった。どう共生していけばいいのか。このキツネから問われているように思える。
撮影記~白昼も盛んに行動
撮影は、寺の許可を得て、2017年11月下旬から12月初旬にかけて、赤外線センサー付きカメラで自動撮影を試みた。夜間、防犯センサーがよく点滅し、キツネが通りそうな場所を教えてもらって設置した。
カメラをセットしたその夜、早速2時過ぎにキツネの後ろ姿を捉えた。雪交じりの雨に体がぬれている様子。キツネの特徴である長くて太い立派な尻尾だ。
カメラは半月ほど設置したままにした。キツネだけでなく、タヌキやハクビシン、猫、迷い犬を写し込んでいた。後半になると、子ギツネが頻繁に姿を現した。人の気配がほとんどない静かな環境のためか、8時過ぎや正午ころと、白昼でもキツネが行動していることが分かる。

写真を見ると、子ギツネは栄養不足なのか、親と思われる個体より毛並みが悪く、痩せている感じだ。まだ十分に狩りができず、獲物にありつけないのか、餌探しが市街地で難しいのか。子ギツネのこれから先が少し心配になった。
(2018年1月1日掲載)
上=白昼、庫裏と離れを結ぶ渡り廊下の前に姿を現した子ギツネ=2017年11月30日9時46分
中=耳の下を後ろ足でかく、犬のしぐさに似た様子も=12月1日11時46分
下=毛並みが良く、親と思われるキツネ。用心深そうにカメラをにらむ眼光が鋭い=12月3日16時43分
(いずれも赤外線センサー付きカメラで撮影)