
山ノ内町の扇状地、中野市と小布施町に広がる「延徳田んぼ」。水田が碁盤の目のように広がる稲作地帯で、稲の落ち穂や昆虫などを求め
て多くの冬鳥が飛来する。
田んぼの中を通る幹線道路を走っていた1月7日、カラスの群れが目に付き、農道に向きを変えた。追い掛けていくと、雪がまだら模様の田
んぼの中に大型の白い鳥がいた。7羽のコハクチョウがくちばしで無心に地面をつつき、餌をあさっている。周辺に人の気配はなく、広い田ん
ぼのど真ん中で、時折、首を持ち上げ警戒しながら真っ暗になるまでいた。
「(延徳田んぼは)ほかに類を見ない広さなので、立ち寄りやすいのではないか」。県環境保全研究所の堀田昌伸さん(58)=鳥類生態学=
は、コハクチョウが飛来する理由をこう説明する。ここより南の安曇野市や諏訪湖などの越冬地に往来する途中で立ち寄るケース、逆に北の
越冬地が大雪で覆われたため、採食地を求めて南下してくるケースが考えられるという。
姿を見せる時期は、その年の気候や降雪状況などで一様ではないが、およそ12月下旬から北帰行の3月いっぱいころまで。
20年ほど前に出合い、観察を続けている小布施町の日本野鳥の会会員の島田正信さん(66)は「暖冬や大雪で観察できなかったのは2、3年。
多い時は50羽を超す」。ねぐらは外敵に襲撃されない近くの千曲川の中州で、1週間ほど滞在し、北へ南へと飛んでいくという。
広く見つけやすい餌場は、野鳥にとって魅力なのだろう。1月12日にはコハクチョウは16羽に。タゲリも姿を見せた。昨年夏には国の特別天
然記念物「トキ」が1羽、2012年には国の天然記念物「マガン」の群れも。殺風景な田園は冬鳥でにぎやかだ。
(2017年2月10日掲載)
写真=雪のない地面をつつき、残った穀類などをあさるコハクチョウ=中野市・小布施町の「延徳田んぼ」で1月7日撮影