駒ケ根市のキャッチフレーズは「アルプスがふたつ映えるまち」。東に仙丈ケ岳などの南アルプス、西に駒ケ岳などの中央アルプスを望む。
観光エリアは、光前寺と早太郎温泉、スキー場などがある駒ケ根高原一帯が中心。中心市街地から西へ約4キロ、標高にして200メートル近く上った所だ。中央道駒ケ根インターからは近いが、JR飯田線で駒ケ根を訪れた観光客は、バスかタクシーで坂道を上ることになる。
光前寺は天台宗の刹。「霊犬・早太郎」伝説で有名だ。早太郎は寺の床下で生まれた山犬で、強く頭が良いことで有名だった。遠州の村で人々を悩ませていた怪物を退治し、不動明王の化身であるとされたという。
本堂にある早太郎の木彫りは、多くの人になでられたのだろうか、表面が滑らかにすり減っていた。
近くに醸造場があると聞き、大田切川を渡って北隣の宮田村に入る。マルス信州蒸溜所・南信州ビールでは、見学や試飲ができる。酒の試飲は鉄道旅の醍醐味の一つだ。
ウイスキー蔵は珍しい。発酵や蒸留を行う工場内には、麦芽を仕込む甘い香りが漂う。貯蔵庫では、600個の木だるが数年間の熟成が終わるのを静かに待っていた。近年はワインの醸造も手掛けている。
タクシーで駒ケ根駅前に戻る。街中心部は江戸時代の三州街道の「合の宿」で、交代で宿役を務めた赤須宿(あかずじゅく)と上穂宿(うわぶじゅく)があった場所。周辺は明治時代、両宿の名から一文字ずつ取って「赤穂」になった。「駒ケ根」は、1954年に町村合併で市ができた時、駒ケ岳の麓にちなんで新たにつくられた地名だ。
両宿の跡は今、国道153号沿いの商店街。昭和の趣を残すアーケード街で、菓子店、衣料品店、薬局などが並ぶ。菓子店では、早太郎にちなむまんじゅうやもなかを売っていた。
街を歩く人は少ない。タクシーの運転手は、「観光客が街まで下りてこない」と嘆いていた。駒ケ根らしい昭和の街並みも観光客には懐かしいが、地元の人には死活問題だろう。
食堂の前には「駒ケ根ソースかつ丼」の赤いのぼりが目立つ。昭和の初めから市内で食べられていたといい、1993年に飲食店有志が「かつ丼会」を発足、かつ丼で町おこしに取り組んでいる。40数店で提供しているという。
ご飯の上に細切りキャベツと、かりっと揚げてソースにくぐらせた豚ロース肉が載る。香ばしさにご飯が進んだ。
(竹内大介)
上=駒ケ根市・宮田村境の大田切川から東に南アルプスを望む
中=光前寺の参道
下=光前寺本堂の早太郎像)