
樹木が芽吹く前、春に真っ先に咲くことから「スプリング・エフェメラル(春のはかない命)」と呼ばれるのがセツブンソウだ。
約1万8千平方メートルと、県内では最大級の群生地が、千曲市戸倉の「戸倉宿キティパーク」から歩いて20分ほどの場所にある。3月初旬に開花したかれんな花を求め、見ごろを迎えた中旬から下旬にかけて、今年も県内外から多くの人たちが訪れている。
キンポウゲ科の多年草で日本固有種。関東から中国地方、県内では北信と中信に分布し、ここが東日本の北限とされる。県版レッドリストでは絶滅危惧II類。高さ10センチ前後で、2センチほどの白い花のように見えるのは「がく」で、ごくまれに八重や黄色の変種が見られる。
私が初めて訪れたのは10年前。当時、園芸目的で盗掘が絶えず、市は地元の要望に応えて市天然記念物に指定した。市環境市民会議を中心に「戸倉セツブンソウを育てる会」を立ち上げ、保護活動が始まったばかりだった。

会員はおよそ50人。活動は、群生地内の観賞用コースにロープで柵を設け、踏み荒らしを防止。忌避剤の木酢液でイノシシ対策をし、花期には会員が交代で監視、自生地までの林道整備などが進められた。市は2008年、市花に指定した。
当時から副会長を務め、現在は4代目会長の宮本章さん(73)は、「花の密度が増して、面積も拡大した。目に見える違法採取はなくなった」と活動成果を振り返る。減少傾向だった会員もここにきて増え始めた。
今季は、来訪者用の配布資料も、会員手作りのしおりから市の協働事業提案制度で新しいパンフレットに。朽ちかけた観賞路の木製のくいも擬木に交換するなど、一段と充実している。

毎年、観察会後にとん汁の振る舞いなどをする交流会の場所は、歩き始めの駐車場だ。「いつかセツブンソウ自生地で花を見ながら開きたい」と宮本会長。交流の輪がさらに広がる夢を膨らます。
(2018年3月31日掲載)
写真上=数えきれないほどある中に、まれに八重咲きも=13日撮影
中=純白の花の中に、やや黄色みを帯びた変種も=13日撮影
下=雪解けを待つように枯れ葉の間から芽を出し、純白の花を咲かせたセツブンソウ=3月11日撮影