
善光寺平の東、なだらかな三角錐の山容の根子岳、四阿山の麓の菅平高原。一帯にはニホンリスが生息し、筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の敷地内によく姿を見せる。
35ヘクタールの敷地は標高約1300メートル。樹木園や草原、森が広がり、リスがよく現れるのは、実験・研究棟近くにある野鳥観察用の餌台周辺だ。餌台は、冬季に行う陸域生物学実習で、「動物観察の効率を考えて10数年前に設置した」と担当の町田龍一郎教授(64)。2年ほどたったころから顔を出すようになり、最近は一度に7匹を確認したほど頻繁に出没する。
昼行性で「よく活動するのは出勤時間前」。日が昇り明るさを増した7時半過ぎ、残雪の上をピョンピョンと跳ねるように1匹が現れた。餌台にまっしぐら。群がる小鳥たちと一緒にヒマワリの種をむさぼる。何かの気配を感じると、素早く近くの木陰に移り様子見。戻っては食べる。
リスは餌台のほか、近くのメタセコイアの幹で秋に蓄えたクルミの実を食べたり、ミズナラやアカマツの枝から枝へ渡ったり、幹を登ったり下りたり。身軽にせわしなく動く姿は「軽業師」の異名の通り、素早く、優雅だ。
体長約20センチ、尾は15センチほどと小さく、体重は約300グラムと軽い。低地から標高1500メートルほどの森林に生息し、本州、四国、九州に分布するが、近年は太平洋岸地帯や中国、九州で減少。環境省レッドリストでは「絶滅のおそれのある地域個体群」に位置付けられている。
餌台の近くにクルミの大木があり、10年前、木の下で希少種を撮影中に頭に「こつん」と実が落下。見上げると、リスがいた。寿命は約5年というが、その孫かひ孫か...。再会にほっとすると同時に、いつまでもこの命が続くことを願った。
シラカバに身を隠し、ヒマワリの殻を口から吐き出すニホンリス=筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で3月13日撮影