
長野市近郊の里山に、カタクリの花が咲き始めると同時に、春の女神「ヒメギフチョウ」が舞う。今年は春の訪れが早く、3月中に顔を出した。30数年来、ほぼ毎年観察を続けている長野市の花崎秀紀さん(66)が「過去の初見日3月31日とタイ記録」と知らせてくれた。
早速、日差しが暖かくなった4月2日、10年ぶりに足を運んだ。樹林帯に差し掛かる開けた草地で、低空を行ったり来たりする1匹を確認。林内では、枯れ葉の上で日を浴びる様子、カタクリの花で蜜を吸う羽化直後のきれいな写真を撮ることができた。
けれども、10年前と似た写真で不満が残る。「1週間後には雌が出て交尾、産卵が見られるかもしれない」とのアドバイスで、気温が上昇するのを待ち、10日に別カットに挑んだ。
すると、前回と同じ草むらで、突然2匹が1メートルほどの高さから襲撃されたかのように草むらに落下。ばたばたともがくうちに、合体したまま2~3メートル移動した。すぐに、重たそうに飛び、近くの高さ約3メートルの芽吹き前の細いこずえに静止した。
戦後間もないころ、一帯には10数カ所の生育地が記録に残る。しかし、1980年代後半から90年代には、開発や乱獲で激減し、数カ所に。それでも「1度の視界に数匹が確認できた」と花崎さん。
その後の記録では、1日で数匹の目撃が大半で、10匹以上の年は少ない。ここ数年は、シーズンを通しても延べ数匹。15年は全く姿を見なかった。
絶滅に近い状況ではないかと心配が募るのだが、久しぶりにヒメギフチョウがにぎやかに飛び交う姿や、交尾、産卵も確認できた。ちょっと期待が持てそうだと心が弾む。
(2018年4月28日掲載)
写真=交尾したまま高いこずえに止まったヒメギフチョウ。時折、姿態を変えながら1時間ほどこの場所にいた=長野市近郊の里山で4月10日撮影