犬や猫などの動物にかまれた傷(動物咬傷)は、傷口が小さく見えても、腫れが長引いたり化膿しやすかったりするのが特徴です。
これは、動物の口の中に雑菌がたくさんすんでいることや、見た目よりも傷が深いことが多く、傷の内部で細菌が繁殖しやすいためです。また、動物の唾液には、人間にとって異種のタンパク質が含まれるため、それに対しても強い炎症を起こしてしまいます。
動物にかまれてしまったら、まずは傷をきれいな水で洗い流すことが重要です。浅い傷であれば、流水で洗い流す程度でもかまいませんが、深い傷の場合には、傷の奥まで念入りに洗浄する必要があります。
傷の中で細菌繁殖
そのためには、痛みを抑える目的で傷の周りに局所麻酔の注射をする場合があり、時には皮膚を切開して傷の入り口を拡大することも必要となります。
傷を負ってから時間がたつほど、傷の中では細菌が繁殖していきますので、深い傷は早めに病院で処置を受けることを勧めます。洗った後で次第に腫れや痛みが強くなる場合は、洗浄が不十分なことが考えられますので、早めに受診しましょう。
傷口を洗った後、傷を縫うかどうかについては、専門家の間でも議論があります。
動物咬傷を縫ってふさぐと、除去しきれなかった細菌や動物の唾液を傷の中に閉じ込めることになります。このため、縫合せず開いたままの傷として処置をするのが、古くからの一般的な考え方です。
一方で、大きく裂けてしまった傷を開いたままにしておくことは、二次的な細菌感染を生む可能性があり、治った後に凹凸や引きつれが残りやすくなります。こうした場合には、入念に洗浄した後、必要最小限の縫合を行うことがあります。
抗生物質の投与も
細菌感染の予防のために、抗生物質の投与も欠かせません。犬や猫の口の中にいる細菌に対応する抗生物質を投与します。
気を付けたい病気の一つである破傷風は、発症すると極めて致死率の高い疾患です。破傷風菌は土壌やごみ、動物のふん便中に広く常在していて、空気にさらされない環境で発育しやすくなる細菌なので、動物にかまれた場合は、特にその予防が重要です。通常は、破傷風トキソイドという予防注射を行います。
狂犬病は、国内では60年以上発生していませんが、海外では毎年5万人以上が発症しており、注意が必要です。
(2018年4月28日掲載)
滝 建志:形成外科部長、四肢外傷・機能再建センター科長、フットケアセンター科長=専門は形成外科全般