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2018年夏03 トガクシソウ ~「幻の花」が奥信濃に

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 奥信濃の深山の渓谷で、小さな淡いピンク色の花を付けたトガクシソウを見つけた。「幻の花」と言われ、生育地は極限。訪れた現場は想像通りの険しい場所だった。

 メギ科の多年草で、中部地方以北の日本海側に分布する日本固有の一属一種。県版レッドリストで絶滅危惧IA類にランクされ、県の希少野生植物でも特別指定種で、採取が禁じられている希少種だ。

 県内では北部の多雪地帯に育ち、長野県植物誌(1997年、信濃毎日新聞社刊)の標本例は、信濃町黒姫山、戸隠村戸隠山、鬼無里村奥裾花、白馬村の4カ所。発刊時点では奥信濃は入っていなかった。

 今回撮影した奥信濃は1998年、飯山市の植物研究家高橋勧さん(88)によって確認された。「トガクシソウによく似た葉の植物が民家の庭にある」という研究仲間からの情報が発端だった。

 山菜採りで見つけたという場所をようやく聞き出し、雪解けを待って探索。雪の重みで根元が湾曲した樹林の中をひと山越えて沢筋に。沢を登り急峻(きゅうしゅん)な渓谷を詰め、群生地にたどり着いた。花は終わり、実だけだったが、約50株を見つけ、思わず万歳をしたと振り返る。

 翌年と4年後、別の研究者仲間と再調査。株数や標高などを克明に記録した。信大の要請で一株を採取し、松本の植物標本庫に保存されたという。

 「幻」とはいえ、戸隠森林植物園内には植栽された株がある。「栽培はそんなに難しくない」という長野市戸隠の岡本基徳さん(78)は2006年から、県に届け出てトガクシソウの栽培、苗の頒布講習会を開催。最初に行った戸隠公民館には、県内各地や東京などから約400人も集まった。数年前から同市朝陽地区や豊野町、戸隠小学校でも開いている。

(2018年6月30日掲載)

写真=かろうじて3株ほどが花を付けていたトガクシソウ。花期は1週間ほどと短い=奥信濃で撮影
 
北信濃の動植物