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2018年夏07 キバナノアツモリソウ ~同じ場所に60年余

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 汗びっしょりになり、北信地方の標高2000メートル近くの稜線に出ると、コメツガやダケカンバなどの林縁の草むらに、独特の小さな花を付けた希少種キバナノアツモリソウが迎えてくれた。大小3つの群落。全部で120株ほどあった。

 ラン科の多年草で高さ20㌢前後。中部地方に分布し、県内では限られた場所にしか生育しない。アツモリソウやホテイアツモリ、クマガイソウ、コアツモリソウの仲間だ。いずれも茎の頭頂部に、袋状の唇弁を持つ花を1個付ける。特有の形や色から人気が高く、主に園芸目的の採取が後を絶たず、減り続けてきた。

 生育地も限定され、県版レッドリストで絶滅危惧I類にランク。県の指定希少野生植物で、採取には届け出が必要だ。このうち、アツモリソウ、ホテイアツモリ、クマガイソウは原則、採取禁止で、譲渡や販売には届け出が必要な特別指定種だ。

 現地に同行、案内してくれたのは長野高校生物班OBの花崎秀紀さん(66)。一帯の植物調査をした戦後間もないころの生物班会報誌にキバナの記載があり、昨年、これを元にほかの生物探索をして、記載とほぼ同じ場所で見つけた。

 掲載は、1956年発刊の「吉丁虫(たまむし)」第7号。前身の長野北高校2年生だった牛山敬一さんらが、連山一帯を高山から亜高山、山城などの5エリアに分け調査。草木一覧の106種の中にキバナノアツモリソウも。「非常に珍しい植物」とし、生育場所、花の形態、花期などを詳しく解説している。

 それから60年余り。生育地は多くの登山者が訪れる場所だ。「それにしてもよく今まで無事で...」。驚きと同時に、いつまでもずっと生き続けることを願い、山を後にした。

写真=褐色の斑紋が入った袋状の唇弁など独特の形のキバナノアツモリソウの花。長さ3~4㌢=北信の高山で6月撮影

(2018年7月28日掲載)
 
北信濃の動植物