
交通の結節点、塩尻。かつては中山道の洗馬宿から松本経由で長野に至る善光寺街道が分岐。今も、東京新宿へ向かう特急「あずさ」と名古屋行きの「しなの」は、ここで分かれる。
松本盆地南端のここには、古くから人が住んでいた。塩尻駅から南へ2キロほどの山際にある平出では、縄文、古墳、平安時代の大きな集落跡が見つかっている。
平出遺跡は国史跡で、5万6千平方メートルの広大な歴史公園になっている。園内には各時代の集落が再現され、竪穴式住居や高床式倉庫の内部に入ることもできる。近くの平出博物館では、縄文土器や土偶などの出土品を保存、展示。使い方を描いたイラストなどで、分かりやすく学べる。
歴史公園の周辺を歩くと、風に乗ってブドウの甘い香りがしてくる。ここから西の桔梗ケ原にかけての一帯は、ブドウ畑が多い。

「塩尻市誌」によると、桔梗ケ原は、明治に入ってから原野が開拓され、1890(明治23)年にブドウ栽培が始まり、間もなくワイン造りも始まった。気候や土壌がブドウ栽培に適していたこと、篠ノ井線や中央線の開業で県外へ販路が拡大したことで、一大産業になっていった。塩尻には、駅や駅前にもブドウ棚がある。
今はブドウの収穫期だ。国道19号沿いなどにある14の農園では「信州塩尻ぶどうまつり」を10月下旬まで開催。ブドウ狩りができる。無数の房が下がった棚の下に入り、デラウェアや塩尻特産のナイヤガラなど数種類をはさみで収穫。取れたては甘味や酸味が鮮烈で、うまい。
ワイナリーは、「五一わいん」の林農園や信濃ワイン、井筒ワインなどがこの一帯にある。大手のメルシャンも最近、桔梗ケ原に醸造所を新しく設けた。9月の土、日曜日と祝休日には、塩尻駅とワインバレーを結ぶ無料シャトルバスが運行されており、試飲しながら巡るのにいい。
塩尻駅は1982(昭和57)年、中央線と篠ノ井線の分岐の仕方を変える線路の改良に伴い、北西へ約400メートル移転した。それまでの駅前に形成されていた大門商店街は、人の流れが変わったことで打撃を受け、商店数が減ったという。

商店街を歩くと、シャッターを下ろしたままの店もある。しかし、塩尻市が市街地再開発で造った図書館などの複合施設「えんぱーく」には人の姿が多い。
ゆったりしたロビーなどに多くの椅子とテーブルが置かれ、勉強する子どもから談笑する高齢者までが思い思いに、楽しそうに過ごしている。中心市街地に人を呼び戻す取り組みの成功例だと感じた。
(竹内大介)
(2018年9月15日掲載)
写真上=移転前の旧塩尻駅に近い大門の商店街
写真下=塩尻駅の周りにはあちこちにブドウ棚がある