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2018年秋 10 ホンシュウハイイロマルハナバチ ~黒ボク土が育む命

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 ミツバチ科のホンシュウハイイロマルハナバチは、身体全体が淡い黄色味を帯びた灰色の毛で覆われ、その名がある。中国東北部やシベリア東南部、東ヨーロッパ、日本では北海道に分布するハイイロマルハナバチの亜種とされ、本州中部の主に長野県に生息する本州固有亜種。県版レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類にランクされている。

 体長は雄で12~13ミリ、標高500~1000メートルの日当たりの良い草原や田んぼのあぜ道などで営巣する。秋に交尾した女王バチは単独で越冬。6月ころ雌(働きバチ)を、夏の終わりに雄と後継の女王バチを産卵、羽化させる。

 県内では草原環境が多い東北信に多く分布。南信での分布はよく分かっていなかったが、県環境保全研究所(長野市)の須賀丈主任研究員(53)=昆虫生態学=が2009年、伊那谷の田んぼのあぜで見つけた。

 須賀さんは、07年ころから、ハチの生息には野焼きでできる炭を含んだ黒ボク土(ど)の草原が深く関係していることに注目。同研究所の霧ヶ峰高原共同調査で、黒ボク土の起源は数千年前の縄文時代までさかのぼることを突き止めた。

 縄文人がなぜ野焼きをしたかは不明とされるが、須賀さんは「青々とした新芽を食べに来る動物をおびき寄せる」と、狩猟の手段ではなかったかと推察。似たことが豪州や北米の原住民が行った記録もあるという。

 野焼きによって維持された半自然草原が、ホンシュウハイイロマルハナバチをはじめとする昆虫や高原特有の植物などを育んできた。「黒ボク土の草原環境は、生物多様性も高い」とし、須賀さんは教育やエコツーリズムとして生かしていくことを提言している。
(「秋」シリーズおわり)
(2018年11月24日掲載)


写真=ムラサキセンブリの蜜を吸いにきたホンシュウハイイロマルハナバチ=東信の高原で10月3日撮影
 
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