135 頭頸部のがん治療 ~早期発見や治療法 技術の進歩で進化

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 「頭頸部」は、おおよそ脳の下から鎖骨までの範囲で、耳、鼻、副鼻腔、のど、口腔、甲状腺、耳下腺などが含まれます。長野市民病院の頭頸部外科では、主にこの領域のがん治療に取り組んでいます。

 頭頸部にできるがんは、進行するほど発声、噛んだり飲み込んだりする機能、風貌に大きな後遺症を残す傾向があります。このため、早期発見や治療法の選択が重要です。治療は、耳鼻いんこう科と一体となって進めています。

 技術の進歩で、頭頸部がんの診断・治療は進化しています。その一部を紹介しましょう。

ファイバースコープ

 のどの奥を観察するためのファイバースコープは、デジタル化されて解像度が飛躍的に向上しました。さらに、特殊な光を当てる狭帯域光観察(NBI)という技術で、肉眼では分からない病変が画像になり、ごく浅い所にできるがんを発見できるようになりました。

放射線治療

 従来の放射線治療では、がん細胞の周囲にも放射線が当たってしまうため、正常組織を傷つけることが課題でした。これに対し、IMRT(強度変調放射線治療)という特殊な技術で、がん細胞だけに高い放射線量を集中させ、周囲の正常組織への線量を減らすことができるようになりました。

 市民病院ではこれをさらに進化させたVMAT(強度変調回転照射法)という照射法も行い、治療時間が短縮されています。

抗がん剤治療

 抗がん剤の研究が進み、より副作用が少なく、効果が高い治療ができるようになっています。例えば喉頭がんでは、声帯の温存率が向上しています。

 さらに、がん細胞を直接攻撃するのではなく、がん細胞の増殖を抑制する働きを持つ分子標的薬が頭頸部がんにも使われ始め、治療の選択肢が増えました。特に甲状腺の未分化がんでは、高い治療成績が報告されています。

外科治療

 外科治療では、手術ナビゲーションシステムの進歩が目立っています。車のカーナビのように、目的地に当たる手術部位と現在地である手術器具の位置関係をリアルタイムで把握できます。頭頸部の構造は複雑ですが、この装置を使うことで、神経や血管を傷つけずにピンポイントで病巣にたどり着き、手術ができるようになっています。
(2018年12月15日掲載)



横溝 道範=頭頸部外科部長=専門は頭頸部外科
 
知っておきたい医療の知識