
乳がんの診察をしていると、患者さんから「乳製品を食べると、乳がんになりやすいのですか」「サプリメントは飲んでもいいですか」などの質問を受けることがあります。「がんになる危険性を少しでも下げたい」と思うのは、患者さんにとって当然の心境でしょう。
今回は、乳がんの危険因子について説明します。
危険性下げる努力
個人の努力で乳がんの危険性を下げることができる代表的な要素は、「喫煙」と「飲酒」です。
喫煙は、乳がんに限らず、さまざまながんの発症リスクを高める上、ほかにも多くの健康被害をもたらします。
飲酒も発症リスクを増加させ、飲めば飲むほどその危険性が高まるようです。ただし、適度な飲酒にはメリットもありますので、お酒は適量を心がけましょう。
これらに対して、「乳製品」は乳がん発症のリスクを下げる可能性があるようです。「大豆」「イソフラボン」の摂取も同様にリスクを下げる可能性があるようですが、結論には至っていないようです。
「サプリメント」や「健康機能食品」は、医薬品のような厳しい基準で効果や安全性が確認されたわけではないので、乳がんの予防を目的に摂取することは勧められていません。
閉経後の女性では、「肥満」により乳がん発症リスクは増加しますが、「運動」によってリスクは減少します。「糖尿病」はリスクをほぼ確実に増加させます。このような生活習慣病の予防に努めることは、乳がんの予防にもつながるといえます。
11人に1人が
乳がんがほかのがんと決定的に違うのは、女性ホルモンが強く影響している点です。
乳がんの約8割が、女性ホルモンが関係した「ルミナールタイプ」で、初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない、授乳経験がないなど、女性ホルモンの影響を受ける期間が長い人で発症リスクが増加します。
一方、残りの約2割は女性ホルモンが影響しないタイプで、お子さんが多くて長い間授乳していた人も、乳がんにならないわけではありません。家族に乳がんの人が多いほど注意が必要ですが、遺伝性の乳がんは全体の5~10%といわれています。
女性の11人に1人が乳がんになる時代。誰もが乳がんになる可能性があります。乳がんの多くは早期発見・治療で治癒できますので、定期的に検診を受け、しこりを自覚したら、医療機関を受診してください。
(2019年1月19日掲載)
小沢 恵介=乳腺外科副部長・呼吸器外科科長=専門は乳腺