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2019年冬 02ニホンカモシカ ~北信一帯に分布広がる

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 長野市街地近く、県庁西の裾花川でイノシシの撮影中、ニホンカモシカに遭遇した。餌をあさり終えたイノシシは、川沿いに上流へ向かい、絶壁からやや傾斜が緩やかになった斜面を上部に駆け上った。木立の下のやぶに隠れるように姿を消すと、別の何か黒い物が動いた。

 ゆっくりと動くのを望遠レンズで追うと、ニホンカモシカが姿を現した。急傾斜地をジグザグに登り、こちらをしばらくじっと見てから、イノシシとともに山腹に消えた。

 カモシカという名前だが、シカの仲間ではない。偶蹄目(ぐうていもく)ウシ科と、ウシの仲間で日本固有種。トキやコウノトリ、ライチョウなどと並ぶ国の特別天然記念物で、県獣に指定されている。

 古来、肉や毛皮が利用された狩猟獣だったが、個体数減少などから、1955年に国の特別天然記念物に指定された。しかし、65年ごろから中部・東北地方で農作物や造林木への被害が出始め、「保護により増え過ぎたのではないか」などの議論が盛んになり、一部で捕獲、駆除が始まった。

 県内でも、ヒノキの産地木曽地方などで被害が深刻化。私は84年初冬、捕獲申請が最多の大桑村の捕獲に同行し、取材をした。林道から国有林内に入ると数頭がいて、2日間で8頭が捕殺された。保護と捕獲のはざまで命を落とすカモシカを目の当たりにして、複雑な思いがした。

 カモシカを科学的、計画的に保護管理を進めている県によると、餌が競合するニホンジカが増え始めた90年代前半ごろからカモシカは減少、もしくは横ばい。推定生息数、捕獲数、被害額ともに、年々減少傾向という。

 しかし、これまで空白地帯だった北信一帯に分布を広げ、ここでは被害報告も微増傾向という。
(2019年1月26日掲載)

写真=急傾斜の斜面で立ち止まり、じっとこちらを見つめるニホンカモシカ=旭山山麓で2018年12月23日撮影
 
北信濃の動植物