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2019年春 01 セリバオウレン ~春を告げる純白の花 細々紡ぐ命

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 北信五岳が目の前に見え隠れする山里の丘陵地帯。杉林の中で、セリバオウレンの小さな純白の花が春を告げていた。咲き始めたのは3月初旬、繰り返す降雪に見舞われながら、中旬には満開を迎えた。

 杉の枯れ葉の間から伸びる株は、独立した1本から群立する10数本まで、さまざまだ。茶や赤色をした約10センチの茎は上部で2、3裂し、やや垂れ気味に径1センチほどの花を付ける。レンズを通してアップで見ると、花やがく片が四方八方に広がり、花火を連想させる。

 セリバオウレンはキンポウゲ科オウレン属。「長野県植物誌」(信濃毎日新聞社刊)によると、葉や花、がく片の形状、枚数、色などによって分類し、オウレン、ミツバオウレン、バイカオウレン、ウスギオウレンなどの仲間がある。

 オウレンの中に葉がセリに似ることから和名があるセリバオウレンは、本州、四国に生育する日本固有種。標本記録は全県に及ぶ。標高700メートルの里山上部から八ヶ岳硫黄岳の2600メートルの高山まで幅広い。

 「根が薬草で、明治時代に田んぼだったところに植えた」と地元の男性。そう言われて見ると、約20平方メートルの生育場所の大半はほぼ平たん。畔(あぜ)のような跡も確認できる。すぐ上部には、数メートル四方の水たまりがあり、染み出す水分の関係か、周辺に花は広がっていない。

 しかし、「繁殖力が強く、増えて困るほど種で増える」と、生育地近くでカフェレストランを営む山口法昭さん。一帯の山野草を撮影してブログで発信し、セリバオウレンも長野市や群馬県などから問い合わせがあるという。

 植栽されたとはいえ、広がりもせず絶滅もせず100余年、細々と紡いできた命の強さに感心した。
(2019年4月6日掲載)

写真=降り積もった雪の間からかれんな花を持ち上げたセリバオウレン=県北部の里山で3月15日撮影
 
北信濃の動植物