
春の山歩きを楽しもうと、4月上旬の日曜日に山仲間3人で飯田市民の山・風越山(かざこしやま)(1535メートル)に登った。市街地や近隣から端正な山容が望め、地元では「ふうえつざん」とも呼び、権現山の別称もある。
5時半に長野市内を出発。上信越、長野、中央道を経て8時前に飯田へ。かざこし子どもの森公園の付近に車を置き、押洞(おしぼら)コースを登る。いきなり急坂となるが、登山道は軽トラックが通れるほど幅が広く、よく整備されている。ヒノキや赤松の樹林の中を進むと、最初の休憩地点の石灯籠に着く。
左右に点在する石仏を見ながら急坂を登り詰めると、秋葉山大権現の石碑前に。ここで登山道は左右に分かれるが、いずれ合流する。われわれは右手のルートから、最初のピークの虚空蔵山(こくぞうさん)(1130メートル)へ向かう。
南側の展望が開け、眼下に飯田市街地、その先に天竜川、さらに伊那山地が一望できる。南アルプスも望めるはずだが、あいにく春がすみと黄砂で見えない。

上部には県天然記念物のベニマンサクの群生地がある。春に咲くマンサクと違って、秋の紅葉シーズンに赤紫色の花が咲く。
さらに登っていくと、登山道の落ち葉を掃いている男性がいた。殊勝な人がいるものだと話し掛けると、新聞に出ていた一本歯の高げたで風越山に登っている人だった。日ごろお世話になっている山への奉仕だという。
その先の展望台では、伊那谷の絶景を見下ろしながら、小学6年生の娘と母親がガスこんろで湯を沸かし、おいしそうにカップ麺をすすっていた。
やせ尾根を進み赤い鳥居をくぐると、「駐馬巖(ちゅうまいわ)」の文字が彫られた大岩が現れた。すぐ上の白山社に参拝するため、飯田の殿様がここで馬を止めたという場所だ。
自然石を刻み込んだ石段を登ると、白山社奥宮に。標高1480メートルのピークに、室町時代に建立された立派な本殿は重要文化財に指定されている。ここまで資材を担ぎ上げるのは大変な労力だ。
奥宮の脇からいったん下り、木の根が張り出した難所を、ロープを使ってよじ登る。そこからは平たんなブナ林が続き、間もなく山頂に。ここまで約3時間。昼食を取り、同じコースを下る。
虚空蔵山の山頂で休んでいると、さっきの一本歯の男性が確かな足取りで下ってきた。山道を、よくあのげたで歩けるものだ。

14時過ぎに下山。時間に余裕があったので、車で山麓の猿庫(さるくら)の泉へ水をくみに行く。日本の名水百選の一つで、茶の湯に適した水として知られる、渇いた喉を潤した後、ペットボトル2本分を土産に持ち帰った。
帰路、差し掛かった飯田の桜並木はすでに満開。大勢の花見客でにぎわっていた。
(横前公行)
(2019年4月20日掲載)
写真上=山頂手前のピークにある白山社奥宮
写真下=一本歯の高げたで登り下りする男性