
中山道を歩きたいと思い、佐久市の望月を選んだ。一帯の歴史は古く、律令時代には望月牧(御牧ケ原台地、現在の東御市と小諸市と佐久市)が勅旨牧(ちょくしまき)として成立し、古東山道が通っていた。
しなの鉄道と小海線を乗り継ぎ佐久平駅へ。ここから千曲バスが運行する立科町役場前行きに乗車。約20分で瓜生坂(うりゅうざか)に到着した。
瓜生坂は広大な逆三角形の御牧ケ原台地南端にあり、佐久平を抜けた中山道はここから本格的な坂道が始まる。峠の切り通しを抜けて望月の町並みが見えてくると、ちょっとした旅人気分になる。
望月宿は街道整備により、1602(慶長7)年に成立した。両側に迫る段丘に挟まれた同宿は、隣を流れる鹿曲(かくま)川の氾濫や火災に幾度も悩まされ、苦難の連続だったという。

宿場の家はほとんどが建て替えられているが、土塀の家や土蔵がいくつか残っている。北風が強く吹く同宿で、火災は大敵だったことがうかがえる。
町中央の本陣跡には望月歴史民俗資料館があり、縄文時代の遺跡発掘物や宿場町の資料などが展示されている。
町を通り抜け、旧街道に沿って長い坂道を歩いて段丘の上へ。家並みが途切れたかと思うと、丘を越えた窪地に集落が見えてきた。茂田井間(あい)の宿だ。
間の宿は正式な宿場ではないが、宿場間が長い所に、旅人の休憩地として点在した。
坂を下ると、右側に情緒ある土塀造りの建物が現れた。1868(明治元)年創業の武重本家酒造だ。江戸時代の名残を今にとどめ、国の登録有形文化財に指定されている。すぐ北には1689(元禄2)年から続く大沢酒造がある。南にそびえる蓼科山の湧水に恵まれたことから、早くから酒造りを営んできた。

カーブした坂道に建つ建物や石垣はどれも個性があり、絵になる景観だ。同宿は山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」(2002年)や昨年公開された「家族はつらいよ3」などの撮影が行われたことで映画ファンなどに知られている。
集落の北には台地が広がり、発掘された遺跡からは律令時代の瓦が出土。望月牧の管理地がここにあったと推定されている。
街道から脇道を抜け、国道142号沿いの道の駅「女神の里たてしな」で休憩。隣の芦田宿(立科町)まで歩いてもいいかなと思ったが、ここで終了した。
(森山広之)
(2019年4月6日掲載)
写真上=瓜生坂から望月の町並みを眺める。右下の中山道は鹿曲川を渡り、川沿いの望月宿を通る
写真下=坂道に土塀造りの家が並ぶ茂田井間の宿。右手前は武重本家酒造、中央奥が大沢酒造。道路横を水路が流れる