
飯山市北部の外様地区。山里から急傾斜が続く黒岩山(938メートル)一帯は、雪解けとともに、カタクリの花が里から山頂に向かって咲いていく。合わせるように、蜜を求めるギフチョウが羽化。北信濃に遅い春を告げる。
アゲハチョウ科で、羽を広げると、5~6センチほど。明治時代に岐阜県で発見されたことから和名があり、日本固有種だ。黒岩山には、ギフチョウよりやや小さいヒメギフチョウも生息。国内でも珍しい混生地として、1971年に国の天然記念物に指定されている。
ギフチョウは暖かい西日本、ヒメギフチョウは寒い東日本から東北と、生息域が大別される。混生地は東北から長野県にかけての日本海側の多雪地帯に限られ、数カ所とされる。
黒岩山で両種が発見されたのは、1950年。飯山市教委発刊の「黒岩山」(1983年)によると、当時木島中学校に勤めていた藤沢正平さんらが春に行った動植物調査中、生徒2人がギフチョウとヒメギフチョウを採集した。
その後、調査、研究が進んだものの、ヒメギフチョウは次第に減少。市や地元の人たちを中心に、監視活動や調査が続けられたが、減少の一途に。歯止めを―と、84年に国は保護増殖事業に着手。文化庁や市、地元、信大などが一体となり、生息地整備や食草ウスバサイシンの栽培や移植、個体の飼育や・放チョウなどに取り組んだ。
しかし、3年にわたるてこ入れにもかかわらず、減少は食い止められないまま。指定直後から保護、調査などに関わってきた麓の蓮華寺住職田村涀城(けんじょう)さん(75)は「最後に確認したのは2004年5月」と話す。以降、ヒメギフチョウは見つかっていないが、ギフチョウは健在。田村さんは今、黒岩山保全協議会の事務局を務め、動向を見守っている。
(2019年5月18日掲載)
写真=芽吹き前の低木の間を軽やかに舞い続けていたギフチョウ。一瞬カタクリの花に止まった=飯山市黒岩山で5月3日撮影