
「初めてオキナグサの花を見た」。黒に近い赤紫色の花を探しに、長野市川中島から来たという高齢の男性は感激した様子だ。花が散った後の綿毛が、翁(おきな)の白髪や白髭(ひげ)を連想させることから和名がある。
キンポウゲ科の多年草で、日当たりが良く、草丈が低い草原に生育。高さ10~40センチの茎の先に釣り鐘状の花を付け、花弁状のがく片の外側から、茎は白色の繊毛で覆われている。
本州、九州の草原に分布している。かつてはどこでも見られたというが、園芸目的の採取や開発、草原の荒廃や減少などで激減。環境省レッドリストでは、絶滅の危険が増大しているⅡ類にランクされている。県版ではⅠB類、県指定希少野生植物の希少種だ。
東信の高原自生地を11年ぶりに訪ねた。毎年、草刈りが行われ、生育環境は保たれている場所だが、前に来た時には大小の株が点在していた斜面に見当たらず、近くの別の斜面にあった。
しかし、花が複数集まった大きな株は皆無で、ほとんどが独立した1本の小さな株ばかりだ。約20メートル四方の草地に、本数だけは数えきれないほどあり、うれしくなったものの、大株になるには何年かかるだろうか―と気になった。
一方、オキナグサの生育地を含む一帯には、アズマギクが広い範囲に点在し、にぎやかだ。中には10数本の小群落も。花の色が淡い青紫色から白に近いもの、赤系が強いものなどがあり、楽しめた。

アズマギクはキク科の多年草で高さ10~30センチほど。中部地方以北に多く分布、県版レッドリストによると、山地の草原や標高の高い岩場などに生育、全県に分布するが少ない。2014年の改訂では「産地情報が減少」とし、準絶滅危惧からⅡ類にランクを上げている。
(2019年6月15日掲載)
写真上=芽吹き前の草原でいち早く小さな花を付けたオキナグサ
写真下=数本が固まってにぎやかに咲くアズマギク
=いずれも東信の高原で5月下旬撮影