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04 オオトラフトンボ ~広く開けた静かなため池で

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 善光寺平の南西、長野市大岡から篠ノ井山布施にかけて南北に長い丘陵地には、田や畑を潤す大小のため池が多数点在する。標高500メートル前後にある池の一つで、高山トンボとしても分類されるオオトラフトンボが、ひっそりと命をつないでいる。

 エゾトンボ科で長さ6センチ前後。中部地方から北海道の山地の池や沼、湿地などに生息する。寒冷地系のトンボだが、極所的で、県版レッドリストで準絶滅危惧種だ。

 県自然観察インストラクター小林友広さん(68)=千曲市=が生息地を案内してくれた。池は林に囲まれ、およそ10メートル×40~50メートルの横長。枯れたハスの茎や葉が残り、時折ウシガエルの低い鳴き声が聞こえる静かな場所だ。「オオトラフはある程度の広さ、開けた環境が必要」と小林さん。

 5月初めまでの大型連休ごろから羽化が始まり、小林さんは毎日足を運んだ。特に、交尾後、近くの林にいったん消える雌が突然現れ、水草の茎や根に卵を産むシーンの撮影を狙った。産卵は一瞬なので、勘を頼りに場所を見極めて、シャッターを切る。

 この地区で生まれた小林さんは、中学時代の恩師の影響もあり、1973年にチョウのような羽があるチョウトンボと出合った。79年の写真県展で、アオイトトンボの産卵を捉えた作品が入選。「もっといい写真を」と、本格的にトンボの調査、研究に取り組むようになった。その後、トンボを素材にした作品は、県展やカメラ雑誌などで入賞、入選が続いた。

 「生態が面白く、目や羽がきれい」と、小林さんは魅力を語る。温暖化の影響か、羽化の時期が年々早くなってきている―と説明。池も数年前から使われなくなり、オオトラフをはじめ、約30種いるトンボたちの行く末を心配している。
(2019年6月22日掲載)


写真=空色の目をしたオオトラフトンボの雄。胸から腹部脇に延びる黄色の虎斑模様が、和名の由来になっている=長野市南西部のため池で5月23日撮影
 
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