「海藻は控えたほうがいいんでしょうか」。これは甲状腺の病気の人によく聞かれる質問です。海藻には、「ヨウ素」がほかの食品よりはるかに多く含まれており、ヨウ素の過剰な摂取は甲状腺機能低下症を引き起こすことがあるからです。
甲状腺に取り込む
食品100グラムに含まれるヨウ素の量は、米で39マイクログラム、豚肉で17・8マイクログラムなのに対し、刻み昆布で23万マイクロ㌘、干しひじきで4万5000マイクログラム、わかめで8500マイクログラム。海藻類に、けた違いに多く含まれています。
摂取したヨウ素は甲状腺に取り込まれ、甲状腺ホルモンの原料として利用されます。ヨウ素を多く摂取すると甲状腺ホルモンが過剰になりそうなものですが、実際には、海藻を連続的に大量に取ると、甲状腺ホルモンが低下し、甲状腺機能低下症になることが多いのです。
厚生労働省の食品摂取基準では、ヨウ素は成人で1日当たり130マイクログラム以上が推奨され、3000マイクログラムが上限とされています。
日本人の要素摂取量を分析した研究では、大半の日は1日500マイクログラム以下で、時々大量に摂取する日があるという結果が出ています。そのヨウ素の摂取源は、昆布が60%、昆布のだし汁が30%、ひじき、わかめが合わせて5%で、これら3種類で95%を占めています。
摂取頻度が高い海藻としては、ほかに焼きのりがありますが、大きめの1枚(約3グラム)に含まれるヨウ素は約70マイクログラムと、あまり気にしないで済む量です。
神経質にならずに
では、実際に海藻をどの程度摂取していいのでしょうか。
昆布そのものは週に9グラムまで、ひじきは週に50グラム(乾燥の状態で)、わかめは週200グラムまでにしておくと、1日平均3000マイクログラム以内に収まります。昆布だしは濃さにもよりますが、週2~3回にしておくのが無難といえるでしょう。

この基準を超えれば直ちに健康障害が起こるわけではありませんので、神経質になる必要はありません。
ただし、妊娠や授乳をしている女性は、取り過ぎに注意したほうがいいでしょう。胎児や新生児は大量のヨウ素に敏感に反応するので、赤ちゃんの甲状腺機能低下を引き起こす可能性があるからです。なお、妊婦のヨウ素摂取は1日2000マイクログラムが上限とされています。
一方で、ヨウ素は妊婦や赤ちゃんにとって必須の栄養素でもあるので、極端な制限はせず、バランスよく取るようにしてください。
(2019年6月29日掲載)
渡辺 貴子=東京共済病院糖尿病・内分泌・代謝内科に勤務(前長野市民病院内分泌・代謝内科副部長、糖尿病・腎センター科長)=専門は内分泌・代謝疾患