146 慢性腎臓病 ~運動は「魔法の薬」

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 慢性腎臓病(CKD)とは、慢性に(長い時間をかけて)経過する全ての腎臓の病気のことを指します。患者数は国内に1330万人いると考えられます。これは成人の8人に1人に当たり、珍しい病気ではありません。

 慢性腎臓病は進行すると腎不全になります。こうなると、体内から老廃物を除去できなくなり、最終的には透析療法や腎移植が必要になります。

 すでに慢性化してしまった腎臓病では、病気そのものを治すことは難しく、完治は期待できません。したがって、病気の進行をできる限り遅らせることを目標に治療を行いますが、特効薬と呼べる治療薬はないのが現状です。

 具体的には、生活習慣の改善で肥満や喫煙といった危険因子を取り除き、塩分を控える食事療法を行います。また、腎臓に影響する糖尿病や高血圧のほか、脂質異常症や高尿酸血症、また慢性腎臓病の進行に伴う貧血などの合併症に対して、薬物治療を行います。

運動療法の効果

 最近はこれに加えて、運動療法の重要性が注目されています。かつては運動をすると腎臓に負担がかかるといわれ、慢性腎臓病の患者の運動は制限されていました。しかし現在では、軽度から中程度の運動をすることは、長期的に見ると着実な健康効果をもたらすといわれ、積極的に推奨されるようになっています。

 腎障害の指標とされる尿蛋白を減らし、腎臓の働きが低下することによって現れる疲労感や息切れを軽減する、透析治療への移行が抑制されるといった効果があるとされ、死亡率を低下させるとまでいわれています。

 運動は、ウオーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、自転車型トレーニング器具などの有酸素運動と、ダンベル体操、スクワット、腕立て伏せ、腹筋などの筋力トレーニングを組み合わせて行うことが勧められます。

 呼吸が荒くなる程度の運動を、運動疲労を起こさない程度に行うようにしましょう。病気の進行や体調には個人差がありますので、運動を始める前に主治医と相談してください。

運動は健康に不可欠

 運動は、慢性腎臓病だけでなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の予防や改善のためにも欠かせません。心臓や肺の機能を向上させ、骨粗しょう症の予防にもつながります。日常生活を送る上で大切な歩行や、立ったり座ったりしたときの姿勢を保持するのに必要な筋肉を鍛えることもできます。

 運動は、いわば「魔法の薬」なのです。

(2019年7月27日掲載)


掛川 哲司=腎臓内科部長、糖尿病・腎センター副センター長=専門は腎臓
 
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