
北信地方にある高原の樹林の中、30センチほどの高さに葉を広げた中央に、純白の花を付けるヤマシャクヤクがあった。ボタン科で、仲間に花の色が赤いベニバナヤマシャクヤクがあり、県版レッドリストでII類、IB類、ともに県指定希少野生植物の希少種だ。
この花を頼りに生きる昆虫が、カミキリムシ科のフタスジカタビロハナカミキリ。体長2センチ足らず、黒色の体で黄色の上翅(じょうし)に大小の黒斑があり、マニアの間では「キマル」の愛称で呼ばれる人気種だ。東北から中国地方、四国に分布する日本固有種で、県版レッドリストで準絶滅危惧種だ。
この希少な植物と昆虫を2008年の花期、中部森林管理局の許可を得て、写真に収めた。その後、どうなっているだろうか。今年5月下旬に訪れると、まだ時期が早めなのか、ほとんどがつぼみだったが、ぼろぼろ状態の開花株が2株。そのうちの1株に目当ての昆虫がいた。
「ハナカミキリの仲間は、それぞれが特定の植物を選び一生を送る。フタスジはヤマシャクヤク」と、長野県甲虫研究会員の丸山隆さん(69)=松本市。
ヤマシャクヤクでフタスジの雌雄が出合い、花びらや花粉を食べて母体を作り交尾し、林床の枯れ枝などに産卵する。孵化した幼虫は、土の中に潜り、ヤマシャクヤクの根茎を食べて育つ。そして、5齢幼虫からさなぎになる時に根茎から脱出。土の中で「土繭」を形成し、花期に合わせるように成虫になり土の外へ出てくるという。
丸山さんは06年から県内に生息するカミキリムシを写真で収集し、Web図鑑「長野県のカミキリムシ」を公開中。両種は16年に東信で撮影、追加したが、「かつて発生地が幾つかあったが、寄主植物ヤマシャクヤクとともに減少」と、現状を説明した。
(2019年6月29日掲載)
写真=ヤマシャクヤクの花芯から出てきたフタスジカタビロハナカミキリ。花弁は食べられてぼろぼろだ=北信の高原で5月下旬撮影